「金融工学」については、まったく知らなかったので、どんなものなのかと思って買いました。
一読したら、投資に直接関係する注意事項が書いてありました。金融工学については、依然としてよくわかりませんが、個人投資家としては金融工学について知らないでは済まされないと思いました。
第1章は「金融工学で金持ちになれるか?」です。一番知りたいことがズバリ書かれていました。結論は、「金持ちにはなれない」です。株価はランダムに上下するので、予測できないというのが結論です。
第2章は「金融工学のテーマは「リスク」」です。リスクをどう扱うかを述べています。「なるほどなあ」という感想です。
第3章は「分散投資の原理」です。乙はここが一番おもしろく思いました。
p.71 では、カタストロフ保険の話が出てきます。これは 11% という非常に高い利回りがあるのですが、ハリケーン・シーズンに保険会社の損失がある一定額をこえると元本の償還がなくなるというものです。アメリカにはこんな金融商品があるんですね。興味深いです。
p.72 では、入試の科目数をとりあげ、科目数が少ないのは集中投資と同じで、ヤマが当たるといいけれど、たまたま不得意分野から出題されると困るとのことです。入試の科目数が多いほうが分散投資と同じで失敗が少ないということです。こんなことで分散投資の考え方を説明するとはたいへんユニークです。
第4章「「ベータ」投資理論」と第5章「先物取引」もわかりやすい解説です。
第6章「オプション」は、ちょっとむずかしかったです。
p.152 保険はオプションだという説明は目からウロコです。
しかし、ブラック=ショールズの公式は、やはりむずかしいですし、それを初等数学でも同じように適用できるとして解いてみせているのですが、乙は十分理解できませんでした。野口氏が一番にいたかったことが伝わりませんでした。スミマセン。
第7章は「未来を拓く社会的技術」で、金融工学は一つの社会的技術であるとし、それによって未来が拓けてくると論じています。
p.202 から、ヨーロッパの大航海時代は民間収益事業だったことで大いに近代化が促進されたと述べています。それに対して、p.206 で中国は官僚国家だったため、民間経済活動が未発達であったので、(明の時代には)世界に遅れてしまったということです。p.207 では、ロシアを取り上げ、社会主義経済が失敗したことを述べています。社会的な技術も、それを活用する仕組みもなく、分権的な意思決定ができないのではどうしようもありません。
では、これからの日本はどうあるべきなのでしょうか。野口氏はそこまでは踏み込んでいないものの、今後の日本の方向性を考える上で、大きなヒントがあるように思いました。
今となってはちょっと古い本ですが、一読の価値はあると思います。ただし、新書版サイズにさまざまなものを取り込んでいるので、やや説明が簡略に過ぎる部分が感じられました。