読み始めてすぐに、著者がかなりの金額による為替ディーリングで失敗した話が出てきます。そんなことからもわかるように、具体的な話が多く、読んでいておもしろいと思いました。ただし、この本を読んだからといって投資技術がアップするかというと、そんなことはありません。そういう意味で、「経済ニュース入門」といったところでしょうか。
p.5 に明確に述べられていますが、「本書の執筆に当たっては、特に参考にした文献はありませんし、誰にも意見やアドバイスは求めませんでした。」とのことです。その態度は、それはそれで意味がありますが、読者のためには、もう少し「次はこの本を」という意味で参考文献の紹介がほしいように感じました。本書では全くのゼロです。
第1章は「「予想」が左右するのが相場」というものです。為替の話が中心ですが、p.33 で述べるように、人が予想するから為替が動くとのことです。これはおもしろいと思いました。最近流行の行動ファイナンスの考え方などにも通じるものです。
p.44 では、アメリカへの証券投資の内訳のグラフが出ていますが、アメリカに流入している資金は、大部分が社債・政府機関債・国債などの証券に投資されており、株式への投資はごくわずかなんですね。乙は意外でした。
第2章は「くすぶり続けるドル暴落の懸念」です。ドルを中心に見た為替の世界を描いています。アメリカの対外赤字についても述べられていますが、ドルの動きがよくわかる記述になっています。
第3章は「世界を飛び回るマネーの正体は何か」です。カネの動きを見るためには、外貨準備、基軸通貨、貿易不均衡などを総合的に見なければならないわけですが、五十嵐氏はそういう見方を示していると思います。
第4章は「「失われた10年」から立ち直った日本経済」です。第5章は「デフレ脱却後の日本経済の新たな課題」です。この二つの章で、最近の日本経済の動きの概略を把握することができるように感じました。
第6章は「異常な経済の異常な金融政策」です。金融の量的緩和政策がいかに変だったかを書いています。
第7章は「少子高齢化に直面する日本経済」です。これからの日本経済を展望します。pp.215-227 では「財政の破綻は回避できるか」を論じています。結論は「財政は破綻しない」ということになりそうです。p.220 にあるように、国債残高が膨張して歯止めがかからないときに、インフレで解決できるという考え方がありますが、五十嵐氏はこれを否定します。インフレがあっても所得は増えないだろうとのことです。インフレと同時に不況になり、スタグフレーションになると予想しています。したがって、インフレによる解決策は採ってはいけないということになります。
全体として、わかりやすいと思います。読んでいくうちに頭の中を整理することができるような気になります。
しかし、一方では、このような主張の根拠がどこにあるのか、はっきりしない面もあり、一人の人の意見を知るという意味でなら読んでもいい本といえるでしょう。
ちなみに、アマゾンで「五十嵐敬喜」を入れると、たくさんの本がヒットします。憲法や都市法などの本が上がってくるので、たぶん、同姓同名の別人がいるのだろうと思いました。