前著『投資信託にだまされるな!』
2007.11.19 http://otsu.seesaa.net/article/67490010.html
の続編といった感じの本です。
第1章は「投信の疑問にすべて答えます!」ということで、前著の読者から寄せられたさまざまな質問に竹川氏が答えています。乙は、ここが一番おもしろかったですね。やはり、みんなが疑問に思うところは一緒なんだろうと思います。
乙が竹川氏の記述(回答)で疑問に思ったのも、ここでした。
(1)p.16 これからどこの国の株を買ったらいいか、事前に予測はできないということを述べ、p.17 に 2002 年から 2006 年までの5年間の13ヵ国(地域)の運用成績を載せ、「毎年順位が入れ替わる中で、上がる国を当て続けるのは困難です。」ということで、世界分散投資を勧めています。
しかし、p.17 の運用成績を見てみると、BRICs 諸国は、13ヵ国の中で比較的上位に来る例が多く、この4ヵ国に投資しておけばいい結果になったのではないかというようにも見えます。
4ヵ国の中で、中国は上海と香港を分けて表にしていますので、それを考慮して五つの地域の平均順位を計算してみましょう。(統計学的には、順位尺度のものに対して平均値を求めてはいけないのですが、片目をつぶって計算します。)
p.17 から計算すると、2002年 6.2 位、2003年 3.8 位、2004 年 7.4 位、2005 年 4.2 位、2006 年 4 位となります。13ヵ国の平均順位は (1+13)÷2=7 ですから、BRICs の五つの地域は、2004 年はほんの少し平均を下回ったものの、あとの4年は平均を上回る成績を上げ続けていることになります。
竹川さん、あなたの資料(p.17)によれば、BRICs に投資しておけば今まで儲かったし、それを延長して考えれば今後も儲かるのではありませんか。
(2)pp.19-20 では、日本株式、日本債券、外国株式、外国債券の4種類に分散して投資することを勧めています。
一方、p.23 では、日本株式、外国株式、外国債券、および「3資産の平均」の4種類について 1991 年を 100 として 2005 年までのリターンを示しています。なぜ、この図では日本債券が抜け落ちているのでしょうか。本来は(3資産でなく)4資産の平均のリターンを示すべきなのではないでしょうか。
ここに、若干のインチキ(失礼!)があります。
当然のことながら、日本債券を含めたら、(この期間の低金利政策により)4資産の平均のリターンは p.23 に示される3資産の平均のリターンよりも悪くなってしまいます。ですから、読者に対するインパクトに欠けます。しかし、だからといってこういう操作をしていいのでしょうか。
もしも、4資産でなく、3資産で表示してもいいとしましょう。だとしたら、p.23 で見るように、この期間の日本株式の成績はパッとしませんから、外国株式と外国債券の2資産の合計のグラフを示せば、さらに成績は上がってしまうのです。だから、2資産で表示するほうがもっと好ましいということになります。でも、このような考え方については、竹川氏は p.22 から p.24 にこう書いていて、否定しています。
「それでは、外国株式や外国債券だけに投資すればよかったと思う方もいるかもしれませんが、それは結果論にすぎません。」
結果論ということで2資産の平均戦略を否定するなら、3資産の平均で威勢のいいグラフを示すのも結果論であり、それは否定されるべきで、4資産の平均でグラフを示すべきではありませんか。
乙は、このあたりの竹川氏の記述は首尾一貫しておらず、うさんくさく思えました。
余談ですが、乙は日本債券に投資していません。それはそれなりの考えがあってのことです。だから、実は竹川氏の記述でいいと思っているのです。しかし、本の記述としては問題があると思います。
(3)p.24 に出てくる「結果論」((2)でも触れたもの)ですが、そもそも乙は「結果論だ」で切り捨ててはいけないと思っています。
1991 年から 2005 年までを振り返ってみましょう。乙は、このころ資産運用について、あまり考えていませんでしたから、何ともいえませんが、今から考えれば、この頃の日本は、どうにも経済的にうまく行っておらず、「失われた10年(15年)」といわれ続けていました。だから、こういう悪い状態の時、日本株に投資するのはおかしい(成績は上がらないだろう)と考え、日本株に投資しない(投資割合を下げる)考え方もあったように思います。あとからグラフを作成して「結果論」だというだけではなく、そのまっただ中にいても、ある程度は流れが読めたのではないかと思います。
結果論といえば、p.23 のグラフで外国株式が大きく上昇しているのだって、結果論にすぎません。だから、p.23 のグラフを示すこと自体が(竹川氏によれば)否定されてしまいそうです。
では、どう考えたらいいのでしょうか。
乙は、結果論でいいと思っています。ただし、本書の p.23 のように、15年のスパンで考えるのでなく、30年から50年(あるいはさらにもっと長期)のスパンで考えればいいのです。マルキールの『ウォール街のランダム・ウォーカー』
2006.8.6 http://otsu.seesaa.net/article/21985368.html
などでは、超長期のデータに基づいて株価の値動きを考えています。そして、その結果を今後にあてはめているわけです。結果論といえば結果論ですが、それでいいと思います。今までの超長期の傾向を将来に延長して考えるのが基本なのではないでしょうか。そもそも、株式や債券などのアセット・クラスごとの予想リターンや予想リスクは過去の結果からしか計算できません。
というようなわけで、乙の考えでは、竹川氏の「結果論だ」と切り捨てる記述は、よろしくないように思います。
第2章は「年齢・金額別の投信活用術」ということで、具体的な資産運用法を説いています。第3章は「投信情報はこう使う!」で、いろいろな情報を調べましょうという内容です。いずれももっともな記述です。
本書は、インデックス投資を基本にしており、まあまあいい本に入ると思いますが、乙としては、もう少し、突っ込んだ記述を期待したいところでした。