とてもおもしろくて、一気に読んでしまいました。野口氏は、本当に頭のいい人だと思わせます。
野口氏の議論は、日本の経済的・政治的なありかたと今までの変遷を見事なまでに解き明かしています。本書を読むと、実に説得力があるので、野口教の信者になってしまいそうです。こんな人が総理大臣になったら、日本は大いに変わることができそうです。
「はじめに」が9ページほどありますが、超忙しい人はここだけ読んでもいいかもしれません。ここに本書で述べられていることのエッセンスが圧縮されています。もっとも、これを読むと引き込まれてしまって、本書を1冊全部読むことになってしまいそうですが。
「はじめに」の p.iv を読むと、「社会主義国の崩壊とIT革命が世界を変えた」ということで、今の世界の変化をマクロに見通しています。ITについては、言及する人が多いでしょうが、社会主義国の崩壊によって市場経済圏が使える労働力が一挙に増加し(約30億人)、これが世界を変えたというのはおもしろい視点です。製造業が中国などに移ったことをひとことで説明してしまいました。
第1章「企業栄えて家計滅ぶ」では、日本の減少した賃金所得などを論じ、これがグローバリゼーションによって起こったことを論じます。したがって、格差是正策や成長促進策では解決できないというわけです。日本経済を考える上で、このように世界の中で位置づけるという見方は当然なのでしょうが、自分ではなかなかできないことです。
第2章「世界の大変化に追いつけない日本」では、なぜ日本が世界の中で没落しつつあるのかを説明しています。世界全体で、「脱工業化国」が躍進し、「産業大国」が没落しているわけです。これが21世紀型のグローバリゼーションです。日本は、当然後者です。したがって、没落するしかないというわけです。
第3章「量の拡大でなく、質の向上を」では、少子化問題や年金問題を取り上げています。p.92 では、少子化でなくなっても(出生児数が今後仮に2倍になったとしても)人口の高齢化はなくならないということが説かれます。乙は、この点、まったく勘違いしていました。また、p.110 では、日米主要企業の価値を比べ、従業員一人あたりの時価総額によって、3グループにしています。その結果、Aグループの優良企業はすべてアメリカの会社で、日本の会社は、優良会社といわれているもの(トヨタ、キヤノン、ソニーなど)でも、Bグループにしか過ぎず、伝統的巨大企業(富士通、日立など)はCグループでしかないことが示されます。日本の電気機器産業は、今や衰退グループなんですね。p.115 では、トヨタもキヤノンも日本の未来は支えきれないとしています。う〜ん、大変な話です。日本の企業は、誰でもできるようなことを安くやってきたわけですから、この方向性では全部ダメに見えてきます。日本は金融業が決定的に遅れてしまっているんですね。
第4章「難題山積の財政改革」では、財政再建、年金問題、消費税などを見通します。p.150 で示されるように、年金を精算しようにも、現在すでに 800 兆円不足しているとのことで、すでに精算できなくなっているんですね。今後は暗い見通ししか持てません。
第5章「法人税減税では日本経済は活性化しない」では、日本の法人税は諸外国に比べて決して高くないし、法人税が生産コストを規定しているわけではないと説明されます。この章もおもしろい話でした。
第6章「資本開国こそが日本を活性化する」では、日本がすでに資産大国になっていることを述べ、それにふさわしいあり方を説明しています。それが「資本開国」であり、外国の資本を日本に積極的に導入するべきだということになります。
そんなわけで、本書は、日本の現在置かれている状況を的確に把握し、これからどうするべきかを明解に示しています。
こういうことを考えるのは、本来は政治家の役目なんでしょうが、今の政治家を見ていても、どうしようもないようにしか見えません。本書の最後の2行は意味深長です。「こうした日本の現状を見ると、無力感にとらわれる。この状況がいつかは是正されることを、願ってやまない。」どうですか。野口氏も「無力感」と言っています。このままではいけないということなんですが、日本の変わるべき方向を政治家は示していません。今後、そういう政治家が現れるのでしょうか。乙は、「無力感」よりも「絶望感」を感じます。こんなことを考えると、投資家としても、日本に見切りをつけ、海外に注目する方がいいように思えてきます。
ともあれ、本書は日本の経済の現状をトータルに説明している良書だと思います。
最後に付言しますが、p.28 の図 1-4 は p.73 の図 2-2 と同じですし、p.29 の表 1-8 は p.72 の表 2-5 と同じです。画竜点睛を欠くようで、ちょっと残念な点でした。