第1章「社会保険庁はここまで腐っていた」では、社会保険庁のダメさ加減を描きます。
第2章「「100年大丈夫」な年金の正体」では、年金のしくみ自体が持っている問題点を指摘します。
第3章「公的年金の破綻はいつか?」では、このままでは破綻は避けられないとしています。2049年だそうです。40年も先のことをいわれても、実感はありません。
第4章「少子化対策は解決にならない!」では、少子化の進行を描きます。少子化が進めば年金がもたないことは当然です。
第5章「このままでは年金が空洞化する!」では、雇用も資本も日本を脱出していくという予想を述べています。p.121 から「最後の最後にお国は国民を食い物にする」という節があります。第2次世界大戦のときに実際にあった事例を述べ、裁判所までが不思議な判断をしたことを描いています。こうなると、日本という国が信じられなくなりそうです。
第6章「年金脱退権を認めよ」が本書のメインです。p.126 では、年金がネズミ講であるとして、もともとうまく運営できるはずがないとしています。その上で、p.135 から、年金脱退権を認めよという主張が書かれています。年金脱退権というのは、すでに払った年金保険料をすべて捨てて、今後年金を受け取らない、年金保険料を払わないということです。ユニークな主張ですが、これが認められることはないでしょう。年金脱退権を認めても、現在年金を受け取っている人、まもなく年金がもらえる人が脱退するはずがありませんし、一方、若い人ほど脱退することが多くなるはずです。とすると、年金制度はすぐにでも破綻してしまいます。つまり、年金脱退権を認めたら、きわめて深刻な少子化が起こることと同じことになります。著者は、税金で年金を払うべきだとしていますから、もしかしたらうまく行くのかもしれませんが、乙はシミュレーションがうまくいっていないように思いました。
第7章「私的年金の構築方法」では、公的年金として月額7万円を支給するというような制度になった場合に、それを補うための私的年金を作ろうということで、国内株への投資を説きます。
全体に、年金問題を知るためには好都合な本だと思いましたが、新しい視点は「年金脱退権」くらいしかなく、その意味でやや不満です。参考文献は1冊しかあがっておらず、第6章だけは既発表ですが、本書の大部分は書き下ろしだそうですから、第6章の主張を中心にして、著者のいいたいことをすらすら文字化したと言えるでしょう。それがうまくいったかというと、乙は疑問に思いました。
乙の感覚では、やはり、数字の裏付けを示しながら、新しい年金制度の設計を具体的に示さないと、説得力がないように思いました。