本書はインデックス投資を勧めます。
p.146 で、アセットアロケーションを考える際に、公的年金の存在を前提にして、私的年金の分は、公的年金と合わせてアセットアロケーションを考えるべきだとしています。そして、公的年金は日本の債券で運用する部分が 67% を占めているから、私的年金としては、日本株と外国株だけを考えればよいとしています。これはユニークな考え方でした。インデックス投資関連の本を読んでも、こういう考え方にお目にかかったことはないように思います。ただし、これは、年金が(今から数十年後に)ちゃんともらえるのかどうかという問題とからんできますので、あまり単純に信じ込まないほうがいいように思います。
年金は年金として、ある考え方に従ってアセットアロケーションを決めているわけで、年金の積立金が増えようと減ろうと、年金が株を組み込んでいても債券を組み込んでいても、加入者に支給するべき年金の額は制度上決まっていますから、何ら変わりません。すると、年金が債券を大量に組み込んでいることを考慮して、その分を私的年金として持たなくていいというのは、必ずしも正しくないように思います。
自分の資産全体で(年金のことは無視して)最適のアセットアロケーションを考えるほうが、年金がどうなろうとも大丈夫という意味では、望ましいのではないでしょうか。
p.159 では、すでに自宅を持っている人の場合は不動産投資は不要としています。自宅もポートフォリオの一部だという見方です。これまたおもしろい視点です。あくまで全体的に総合的にとらえようという著者の姿勢には共感します。
p.175 では、日本株と外国株の投資割合の議論が出て来ますが、株式時価総額を基準にして、日本株15:外国株85 という考え方があることを紹介しつつも、「本書ではわかりやすさと運用の簡易さを重視して」日本株と外国株を半々で持つことを提案しています。しかし、これは説得力がまったくありません。なぜ日本株を重視するか。これについては、p.257 に説明が出てきます。純粋投資理論から言えば、日本株15:外国株85 が適当かもしれないとしつつ、「日本経済の発展を私たち普通の市民の投資で応援したい」ために、50:50 にするというのです。この議論は、やっぱり変です。日本株は 15% でいいのではないでしょうか。
p.257 では「しかし、自国民が他国と同等にしか評価しない日本経済に未来はあるでしょうか? そんな国に他国の投資家が資金を回してくれるでしょうか?」と述べていますが、乙は、日本も世界の中の一つの国に過ぎないし、日本を重視する必要はまったくない(他国と平等に扱うべきである)と思っていますので、この意味で 50:50 の議論には与しません。他国の投資家が特に日本に資金を回してくれなくてもいいのです。インデックス投資の考え方からすれば、どこの国に住んでいる人でも、15% 程度は日本株を買うべきだということになりますから、それで十分ではないでしょうか。
p.170 の1行目に、「国内株式と外国株式の相関係数は、0.25% となっています。」とあります。相関係数には「%」は付きません。著者の単純なミスだと思いますが、こういうミスは、著者の数字に対する理解が十分でないかのような印象を与えますので、気をつけなければなりません。
さて、本書中で、間違いを述べているところがあるので、これは、きちんと指摘しておきたいと思います。「はじめに」に出てくる話です。Aさん、Bさん、Cさんの3種類の株式投資のしかたで、それぞれのリターンがどうなったかを示しています。
3人とも、2000年1月に投資を開始します。毎月1万円ずつ投資して、2007年10月まで94ヵ月運用するというのです。
Aさんは、年1回、1年中で最も安いときに12万円で株式を買い、最高値でそれを売却するということを8年間繰り返します。(最高値が先に来る場合は、その時点で空売りすると考えるのでしょうね。)
Bさんは、2003年3月(それまでの最安値を記録したとき)にそれまで貯めていた全額の39万円を出して、株を買い、2004年4月(その後の最高値を記録したとき)に全額を売却します。あとは鳴かず飛ばずということです。
Cさんは、こつこつと毎月1万円で株を買い続けます。ドルコスト平均法によるインデックス投資です。
最終の運用成績を見ると、Aさんの利益 16 万円、Bさんの利益 19万7千円、Cさんの利益 37万円で、Cさんが圧勝します。インデックス投資はこんなにもいいという話です。
乙は、はじめに読んだときは、なるほど、インデックス投資はすごいものだと思ってしまいました。しかし、Aさん、Bさんのように(あとからチャートを眺めて)最高の成績を想定した場合でも、Cさんに負けるというのはどうも変だと思ってよく考えてみると、北村氏のこの計算は間違っていることに気づきました。
Aさんは、毎年12万円ずつ投資して8年間運用してますが、これは、Cさんが94万円運用しているのと比べると、たった12万円の運用に過ぎません。12万円の運用で8年間に16万円の利益を出しているというのは、とんでもなく高いパフォーマンスです。
あるいは、1年目は12万円、2年目は24万円、3年目は36万円というように投資資金を増やしていって計算してもいいでしょう。これならCさんと比べることができます。
さらにいえば、1年目には12万円が14万円になったとすれば、2年目はそれに12万円を足して26万円を投資したと考えてもいいと思います。複利効果が出ますから、さらにすばらしい成績が上げられるはずです。とにかく、Aさんは、北村氏が想定するよりもずっとずっとすばらしい成績を上げたことになるはずです。
Bさんはどうでしょうか。Bさんは、最安値と、その後に来る最高値が本能的にわかっていたという前提です。だとしたら、2003年3月に資金全額の39万円を出して株を買い、2004年4月に58万7千円で保有株式を全部売却して、それで終わりというのは変です。2003年4月に1万円、5月にも1万円、……といった調子で、毎月1万円ずつ投資に回せるのですから、お金がある限り追加投資するに決まっています。そして、2004年4月に全額を売却するわけです。
こうすると、2003年4月の1万円は、2004年4月に 14,662 円になっています。2004年3月までの12ヵ月分の1万円の投資は、乙の簡略な計算では、3万円ほどの利益を生みます。つまり、Bさんの利益は19万7千円ではなく、22万7千円ということになります。
それでも、Bさんは、3人の中で最低の成績になってしまったのですが、なぜそうなったのでしょうか。Bさんは、2004年4月以降、鳴かず飛ばずの成績だったという話ですが、ここがおかしいのです。TOPIX がその後5割も上昇するときに、鳴かず飛ばずの成績というのは、とんでもなく下手な株式投資をしているということです。
これらの二つの点を考慮すると、乙は、北村氏の出した例は、インデックス投資が優秀であることを示そうとして失敗してしまった例であると思います。
多くのブログでこの本に言及しています。
http://fund.jugem.jp/?eid=573
http://randomwalker.blog19.fc2.com/blog-entry-654.html
http://nightwalker.cocolog-nifty.com/money/2008/01/post_6f66.html
http://www.shinoby.net/2008/01/post_752.html
http://bestbook.livedoor.biz/archives/50430376.html
http://renny.jugem.jp/?eid=473
http://blog.livedoor.jp/pikopiko432/archives/50902113.html
http://blog.goo.ne.jp/eliesbook/e/4a5f088c7ed72771ba164cf14331809d
http://atsukix.blog108.fc2.com/blog-entry-22.html
http://keishin20.seesaa.net/article/80333382.html
http://shinkansen-19641001.cocolog-nifty.com/kodama/2008/01/post_4080.html
http://ameblo.jp/nabetti-2000/entry-10068380390.html
http://france.lysithea1.com/000262.html
http://ethiopia.lysithea1.com/000022.html
http://moneytrade.blog34.fc2.com/blog-entry-521.html
http://ameblo.jp/bengoshi-s/entry-10069675615.html
http://koyo8.blog104.fc2.com/blog-entry-53.html
http://blog.livedoor.jp/m_dai23/archives/50449444.html
http://blog.damesara.boo.jp/?eid=467596
http://pension.blog88.fc2.com/blog-entry-58.html
上で乙が指摘した間違いは誰も指摘していませんから、皆さん、北村氏の話をそのまま読み過ごしてしまったということだろうと思います。
インデックス投資が優れていることに変わりはありませんが、北村氏のような間違いをすると、やっぱりアクティブ投資のほうがいいのだと考える人が増えそうです。株式の買いと売りの最適なタイミングがわかれば、アクティブ投資がインデックス投資よりも優れているのは当たり前です。
もっとも、そもそもこの間違いに気が付かない人が大半かもしれないので、本書を読んだ人は、素直にインデックス投資を信じるのでしょうかね。
北村氏が今後改訂版を出すときには、ぜひ、この点を直してもらいたいものです。
本書は、若い人向けの本です。若い人は時間がたっぷりあるのですから、本書で説かれるインデックス投資をぜひ実行して下さい。