乙が読んだ本です。「永続する会社が本当の利益をもたらす」という副題が付いています。
大部分はアメリカの話ですが、株式投資について、約50年の具体的なデータに基づいて書かれているので、しっかりした本だと思います。
序文を読んでいるうちに、引き込まれてしまいました。だって、リターンの追跡調査をしていくと、「新興企業、新興業界、新興国にかぎって、リターンが極端に低くなっている。」(p.xv) などと書いてあるのですから。
第1章「成長の罠」は、まさに序文に書いてある点を徹底的に追及した貴重な研究成果です。p.10 のIBMとスタンダードオイルの比較も印象的ですが、本書の真髄は、S&P500 の全銘柄を約50年にわたって追跡調査したところです。(巻末に付表として全データが載っています。)数値データをきちんと集め、その分析結果に基づいて下された判断ですから、これは正しいと思います。
乙はショックを受けました。自分のポートフォリオを見ると、新興国株の比率が高く、
2007.10.15
http://otsu.seesaa.net/article/60730510.htmlその中でも、BRICs 諸国にやや重点をおいた投資をしてきたのですが、
2008.1.12
http://otsu.seesaa.net/article/77918615.htmlそのやり方はダメだといわれてしまいました。う〜ん。データが示されていますから、説得力があります。乙はまさに「成長の罠」にはまっていたのです。そのうち、ポートフォリオの変更が必要なように思います。新興国株の比率を下げるということです。
p.14 高配当株が投資先としていいそうです。p.31 長期投資では配当が大事だとのことです。これらは、すでに聞いた話でしたが、こうしてデータを示されると説得力があります。
第6章「新興の中の新興に投資する新規公開株(IPO)」では、何と IPO に投資してもリターンは決して高くならないとのことです。これも興味深い結果でした。
p.123 設備投資が少ない企業のほうがリターンが高いとのことです。これまた意外でした。
pp.125-128 インターネットがいろいろな企業にどういう影響を与えたかを論じています。なるほど、こうしてみると、IT バブルは確かにバブルだったのです。ネットの経済に対する影響は大きいけれど、どのように影響するかをきちんと理解しておかないと、勘違いの投資をしてしまいそうです。
p.144 配当を再投資することが重要だと説きます。納得できます。
p.160 印象的なグラフが載っています。1929年9月から1954年11月までの S&P 500 のリターンが示されていますが、大恐慌がなかった場合と比較しています。何と、大恐慌がなかったと仮定したときのほうがリターンが低いのです。最初、乙がこのグラフを見たときは、シーゲル氏の間違いではないかと思いました。しかし、これは間違いではありません。大恐慌の株安が起こったときには、配当を株安時に再投資できたからというわけです。これまた意外な指摘でした。
p.168 ここにもまた印象的なグラフが出てきます。S&P 500 のリターンよりも、S&P 10種、あるいはコア10種のほうがリターンが高いということです。となると、個人の場合も、この戦略をとるべきだということになってきます。実際この戦略に従って株式投資する場合は、株式売買手数料が心配になりますが、十分な資産がある場合は、相対的に手数料は下がるわけですから、有力な手法だと思いました。
p.201 ここの図も興味深いものです。1900 年から 2003 年で、アメリカ株のリターンは 6.5%、日本株は 4% という結果です。日本は意外なほど低いし、アメリカは(他の15ヵ国と比べると)予想外に高くなっています。このような16ヵ国の株式のリターンを考慮すると、乙が目標とする 7% のリターンというのは、だいぶ期待しすぎの数値のように思えてきました。もう少し低くしないといけないのでしょう。
第15章「世界的解決 真のニューエコノミー」もまた興味深い章です。今後は、途上国の投資家がアメリカ(の株式)を買うことになるという見通しが書かれています。先進国では、今後は退職者が多くなり、持っている資産を売却して生活することになり、それを買うのが現在の途上国の人々だというわけです。この見通しは当然日本にも当てはまります。これから日本企業も新興国の投資家に買われる時代がやってくるのです。今の日本では、これに対して反発する声が強そうですが、経済的には避けられない運命なのでしょう。
p.262 1992 年から 2003 年まで、ブラジルと中国のGDP成長率と株式のリターンをグラフ化しています。結論は、GDP成長率が高いからといって株式のリターンが大きいわけではないということです。第1章「成長の罠」を国際比較しているわけです。p.264 には、1987年から2003年までの新興成長国のGDP成長率と株式リターンの関係がグラフとして掲載されています。何と、負の関係が認められるというのです。このことから、成長率の高い国に投資することは、むしろよくないことだとされます。乙は説得されました。
p.275 アメリカ株に投資するなら VTI がいいということです。とにかく広い銘柄に投資することを勧めます。また、p.274 では、非アメリカ株の投資の場合は EFA や EEM をすすめています。なるほど。大いに参考になります。
p.291 本書の結論が書かれています。株式投資で推奨されるポートフォリオです。
インデックスファンド 50%
(うち、米国株 30%、非米国株 20%)
リターン補完戦略 50%
(高配当戦略、グローバル戦略、セクター戦略、バリュー戦略に、各10-15%)
1冊読み進めてきた後では、この結論が納得できることになります。
ともあれ、本書は、乙の投資戦略を変更させるだけのインパクトを持った良書です。株式投資がどんなものか、わかったような気がしました。特に、きわめて長期にわたるデータを示しながら論述されますので、非常に説得力があります。株式投資に関して、基本的な知識がわかったように感じました。(実際は、忘れてしまうことも多いでしょうが。)
こういう本が出版されているアメリカという国がうらやましく思いました。こんなすごい本が出ているとは、さすがにアメリカです。乙は、本書に相当するような株式投資の本(特に日本株を材料にした本)は、見たことがありませんでした。
原書が出てから短期間のうちに日本語の訳書が刊行されたわけですが、これは日本人に大いに恩恵を与える本であると思います。
目からウロコが落ちるとは、まさに本書のような本のことをいうのでしょう。本書は、300 ページを越える長さで、読むのに時間がかかりますが、それだけの内容が詰まっています。株式投資をするすべての人におすすめできる本だと思います。