著者の辛坊氏は、読売テレビの解説委員だそうで、本書は、年金問題について、専門の立場から解説するというよりも、一般人の目でわかりやすく説明するという感じで書かれています。したがって、参考文献も1冊もあげられておらず、年金問題についてさらに知りたいという人には向いていません。
しかし、年金がどんなふうになっているのか、それをジャーナリストの目を通して、その全体をわかりやすく提示しています。
第2章「年金ってなんだ!」では、軍人恩給から始まった年金制度の歴史をたどります。なぜ年金が今のような制度になったのか、いきさつがよくわかります。
年金の問題をはしかと似ていると説明した pp.89-96 はおもしろかったです。辛坊氏は「悪しき「個人主義」」と呼んでいます。ごく一部の人がはしかの予防接種をしない場合は、「はしかにかかったときは本人の責任だ」で済んでしまうのですが、多くの人が予防接種をしないと、周囲にはしかの免疫を持っている人が少ないために、一度はしかが発生すると爆発的に広がってしまいます。年金も同じで、ごく一部の人が年金の掛金を払わない場合は、その人だけが将来年金をもらえないというだけで、本人の責任ということですが、多くの人が掛金の不払いをすると、年金制度が破綻してしまうというわけです。
第3章「日本の年金制度、これが問題」では、世代間の不公平を述べ、日本を「外国と戦う前に、老人と戦って滅びる国」としています。それくらい、世代間の不公平は大きな問題です。まあ、最初の制度設計が悪かったのは明らかですけれど。
第4章「消えた年金騒動」では、2006年から始まった 5000 万件の年金騒動を細かく説明しています。名前すら記載がない記録が 524 万件もあるとなると、とうてい解決は困難です。この問題の原因は何なのかもきちんと示しています。この章を読むと、今回の年金騒動をみんなが納得する形で解決するのはきわめて困難だということがわかります。当初からの制度設計がよくなかったのですね。だいたい、金を受け取っている以上は、受け取った側が領収書を発行するなり、1年に1回でも現状確認のハガキを出すとかが当然のことだと思いますが、そういう当然のことが行われないままに現在まで来てしまったのがそもそもの問題です。
第5章「どうする? 新年金制度」では、これから考えられている年金制度に関する辛坊氏の意見を知ることができます。しかし、どうやってもうまく行きそうもないような気になります。
年金は、全体として難しい問題ですが、個人的には、自分の老後を考える際にいくら年金がもらえるのかは重大な関心事です。年金問題にはたえず関心を持っていないといけません。とはいえ、そう考える乙のような人間は中高年層に多く、若年層はほとんどまったく関心を示さないのですね。若年層は、少子化という人口減の影響に加えて、選挙のときの投票率が低いので、政治家が「若い人のため」を考えなくなります。
本書は、日本の年金について改めて考えさせてくれる良心的な本だと思いました。