著者の坂口氏は現役のバイヤーかつ調達業務研究家だそうです。本書は、したがって、仕入れ(バイヤー)の話が語られます。
本書中のあちこちに出てくる具体的な経験談はおもしろいと思いました。やはり、その業種に長らく身を置いた人ならではの話が聞けるというところが本書の最大の売りでしょう。
しかし、読後に考えてみると、実際には、そのような体験談は大したことがないのかもしれないと感じるようになりました。つまり、当然のことを述べているだけではないかということです。本書は、全体としてはわかりやすいし、新書としてはそれでいいのかもしれませんが、乙としては、もう一歩踏み込んでほしいなあと思いました。
第1章は、各商品の原価と利益率の考え方が出ています。企業の決算書などから推定していますので、たぶん、この考え方でいいのだろうと思います。これが本のタイトルにもなっていて、牛丼1杯で9円しか儲からないということです。それ以外に、ブランドバッグ、高級テレビ、コーヒー、自動車などの原価(の推定値)があかされます。
第2章は、「利益を生む「工夫」と「不正」の微妙な関係」ということで、工夫と不正にまたがる話を扱っています。具体的・現実的な方策も載っていて、たいへん興味深いと思いました。それにしても、もう少し理論的に説明できないものかと感じました。
第3章は、「値段をめぐる仁義なき戦い」ということで、さまざまな失敗談などが語られます。しかし、あっと驚くような話はあまりありません。
第4章は、「利益と仕入れの無限の可能性」です。バイヤーの観点からさまざまな提言がありますが、これらも、まあ、常識的な話のように思います。
巻末には、参考文献が1冊も挙げられていません。実務書だから当然とも言えます。
全体としては、乙はあまりおもしろく感じられませんでした。タイトルに引かれて読んでしまったに過ぎません。図書館で借りて、自分の懐がいたんだわけではないから、まあいいとしましょうか。いや、やっぱり、自分の時間を使ってしまったという点で、マイナスだったかもしれません。