前書きによれば、本書は千葉商科大学に提出した博士論文がベースになっているとのことですから、学問的なレベルにある本といえるでしょう。実際、いろいろなことが前提になっており、細かい説明は省略されています。乙のようなシロートが読む本ではないようです。
乙は第9章だけ読みました。ここが一番関心があったからです。
p.197 日本政府には負債も多いけれど、実は資産も多いということで、他国とは状況が違うということです。なるほど、乙はこういう視点は持っていませんでした。いたずらに国家財政の危機を煽る人は、この事実をどう考えているのでしょうか。
p.201 (1) の数式ですが、間違いが二つ含まれています。「B(T)」は「P(T)」にするべきです。また、分母の右端に「)」を追加するべきです。数式は、自分の考えを明確な形で表現する方法ですから、これに間違いがあるということは、致命的なことであると思います。本文中の単なるミスプリとはわけが違います。
p.215 定額郵貯の正しい見方が示されています。「金融界は、定額郵貯を安全、高利かつ高い流動性を併せ持つ経済非合理的な商品であると批判してきたが、安全とは国債と同程度、高利とは銀行預金金利が低すぎること、高い流動性とは解約オプションという意味で国債とオプションの組合せという経済合理的なハイテク金融商品であったわけだ。」
いかがですか。この1段落で定額郵貯の仕組みを明確に物語ってしまいました。
さらに、この段落には注9)がついていて、次のように述べます。「民間金融機関でも、定額郵貯と類似したハイテク預金を開発できたはずだ。しかしながら、定額郵貯を非合理的な商品であると批判してきたことや従来型の預金でも低利な資金調達が可能であったことから、定額郵貯と類似したハイテク預金について、民間金融機関は積極的ではなかったのだろう。」
さらに、p.217 では、1990年代における郵貯シフト(郵貯に資金が集まったこと)は、銀行が努力しないことが原因だとしています。。
高橋氏は元財務相のお役人ですから、過去の日本政府の政策を批判することはしづらく、どちらかというと肯定的に見るバイアスがあるとは思いますが、それでも、この言い方は興味深いものがあります。
他の部分を読まないで、第9章だけ読んでもあまり意味はありません。しかし、今は時間がないので、残りはまたの機会に読むことにしましょう。