「投資リッチ」とは、いったいいくらくらいの資産を保有している人のことでしょうか。
p.26 や p.68 に明記してあります。100億円です。このくらいのお金を投資する場合に、著者の上条氏がどんなことを考えているのかを語った本ということになります。
p.151 では、デフレ時とインフレ時で投資方針を変えるとしています。しかし、乙は、この方針には若干疑問を感じます。世界中に投資しているとき、インフレやデフレは非常に分かりにくいのです。日本国内だけなら、比較的簡単に(統計資料で)わかります。しかし、著者は基本的に全世界投資を考えています。となると、世界各国の統計資料をどう調べるのか、またそれぞれに応じてどう戦略を立てるのか、けっこうむずかしいと思います。
p.153 では、資産を「安全、成長、挑戦」に3分類するという話が出てきます。そこでいうところの「安全」は、国内の預貯金と国債だそうです。これは、p.151 で断っているとおり、日本に在住の場合とのことですが、それにしても居住地バイアスではないでしょうか。グローバル経済を中心に考えるならば(そして著者はそう考えているようですが)安全資産として国内の預貯金と国債を考えるのは変です。もっとも、p.180 以降では、アメリカ株の ETF および EAFE を勧めているので、それはそれで納得します。
p.157 では「数字はウソをつきません!」と書いています。それは正しいのですが、乙が本書の記述を一通り読んだ後の印象では、数字があまり出てきません。表もグラフも、わずかしかないのです。もっと数字で語ってほしかったところです。
p.164 および pp.196〜で、ベトナム株(さらにはインドシナ半島全般)に投資することを勧めています。今後の成長が期待できるというわけです。乙も、以前はそのような考え方をしていましたが、シーゲルの「成長の罠」
2008.4.7 http://otsu.seesaa.net/article/92505039.html
の考え方を知ってからは、かなり懐疑的になってきました。
p.173 では、日本の低金利をなげき、海外の銀行に資金を預けるべきだとしています。しかし、これは為替レートを無視した話で、高金利の海外の銀行に預けたからといって資金が増えるとは限りません。
本書には、参考文献が一つも挙がっていません。いろいろな本に当たって検討した結果を述べているのではなく、著者の主張を書いているのです。このような書き方に意義がないとは思いませんが、乙は、説得力に欠けるように思いました。
投資にはさまざまな考え方があります。著者は著者なりの考え方があるでしょう。しかし、その考え方が他人にも当てはまるのかといえば、そんなことはありません。「100億円儲けた私の投資手法」の類の本と同じかもしれません。
乙は、この本を読み終わったあと、他人に勧める気にはなりませんでした。