表紙には、上のほうに副題風に「「貯める」より「増やす」ことが、お金持ち投資戦略」と書いてあり、また、下のほうには「なぜ、財形をやめるとお金持ちになれるのか?」と書いてあります。
ちなみに、乙が一読した限りでは、「なぜ、財形をやめるとお金持ちになれるのか?」に対する回答は(直接には)書かれていなかったように思いました。
本の目次は
http://www.gaiainc.jp/kojin/media/books_hotta.html
にあります。
http://www.gaiainc.jp/
は中桐氏のホームページです。
乙は、中桐氏の著書は今まで2冊読んだことがあります。
『隠れたお金持ちが、みんなやってる投資の法則』
2008.3.10 http://otsu.seesaa.net/article/88979803.html
『会社勤めでお金持ちになる人の考え方・投資のやり方』
2007.11.5 http://otsu.seesaa.net/article/64583300.html
の2冊です。
読後感からいうと、以前の2冊と似た感想を持ちました。長期分散投資や積立投資を説いている点でまともな投資法を解説していると思いますが、しかし、全体に新鮮さがなく(手堅いといえば手堅いわけですが)、どうもどこかで読んだような感じがします。初心者向けの本では、こんなことになるのでしょうか。
乙が「へえっ」と思ったようなところもあります。
p.093 では「資産が数億円あるお金持ちの半分以上が300万円以下のクルマに乗り、36%が中古車を買い、4万円のスーツを着ているという事実」が紹介されます。乙は意外でした。この話の出典がわかるとありがたかったです。内容を詳しく知りたいと思いました。
p.145 には、天引き積み立て投資しか上手くいかない理由が5点書いてあります。
@支出は必ず収入ギリギリまで上がるため(パーキンソンの法則)
A人はマーケットが下がると怖くて買えないため
B毎日の値動きを気にしなくていいため
C投資金額と買値がわからなくなるため
D資本主義下では株価は上下しながらも右肩上がりに上昇するため
乙はなるほどと思いました。ただし、Cについては、毎月定額を投資すれば、定額×月数で投資金額がわかるわけです(したがって、直接の買値はわからなくても、平均的な買値はわかります)から、ちょっと言い過ぎのように思います。
さて、本書にはいろいろ問題点があるように思います。以下ではそれを書いておきましょう。
pp.135-136 投資信託に関して「基本的にはこのノーロード商品がお薦めですが、すべての商品がノーロードになると、販売する側にメリットがなくなるので、それはあり得ません。」と書いてあります。これは間違いです。ノーロードになっても、信託報酬の一部が(運用会社だけでなく)販売会社に入るため、投資信託を販売する側にもメリットがあります。したがって、すべての投資信託がノーロードになることは十分にあり得ます。(現実には、なかなかむずかしいでしょうが。)
p.180 「がんと分散投資」について論じています。さまざまな食べ物をとることでガンを予防しようということと、さまざまな金融商品に分散投資することをたとえ話で結びつけて解釈しています。しかし、これはいかにも無理です。食べ物は消化されて体内に取り込まれるものであるのに対し、金融商品はそれ自体の価値が上下するものです。したがって、同じく「分散」といっても、基本的に原理も必要性も異なります。分散投資を比喩で説明するのはむずかしいように思います。
p.026 「投資信託は英語で mutual fund と言いますが、この“mutual”というのは“共通の”という意味です。」とあります。mutual を英和辞典で引くと、確かに「共通の」という訳も付いていますが、mutual fund というときの mutual は「共通の」というよりは「お互いに対する、相互の」といった意味ではないでしょうか。「共同の」という意味もあるかもしれません。「共通の」では何が共通なのか、意味がわからないように思います。
本書はミスプリが目立ちます。以下は網羅的ではありませんが、指摘しておきます。
p.079 l.5 どうしょうか→どうでしょうか
p.097 l.-4 これは最もなことです→これはもっともなことです
p.187 l.1 仕事は分業・専門家されています→仕事は分業・専門化されています
p.188 l.5 仕事とてして→仕事として
p.189 l.4 仕事に対しての投入する→仕事に対して投入する
ミスプリが多いということは、本書の価値を低めます。著者がきちんと校正していないというわけですから、どこか信頼性がなく、魂がこもっていない感じを与えます。
p.204 には「厳選! 投資に関するあれこれブログ集」があります。乙がよく知っているブログがリストアップされていて「なるほどなあ」と思いました。そうしたら、なんと乙のブログも入っていました。「プロ級の知識を得たい人はこちらのブログ」のところです。「プロ級」だなんて、乙は、そんなとてもとても……。何だか恥ずかしいようなくすぐったさを感じました。
ということは、この記事も中桐氏が読んでいらっしゃるということでしょうか。