乙が読んだ本です。
一読して、感じました。アメリカは病んでいます。
著者の堤氏は、東京生まれだそうですが、学士号と修士号をニューヨークで取得しているとのことですし、アメリカで仕事をしているとのことですから、英語力はネイティブ並みでしょう。アメリカの生活のすみずみまで知っているようです。そういう人が、ワーキングプアのことを書いているのですから、おもしろくないはずがありません。
乙が初めて知ったようなことがたくさん出てきます。
本書の記述は、とにかくきちんと数字を出すことにこだわっています。各種統計資料を参照しているのでしょう。たとえば、p.21 には、無料−割引給食プログラムに登録した生徒の数が 2005 年には全米で 3002 万人にのぼると書いてあります。3000 万人とはすごい数です。乙は自分の目を疑いました。しかし、数字で示されると納得せざるを得ません。
第1章は、「貧困が生み出す肥満国民」ということで、一見「おや?」と思います。貧困児童には肥満が多いというのです。家が貧しいと無料配給切符(フードスタンプ)に頼るようになります。上述の無料−割引給食プログラムも似たような制度です。こうして、貧困層は安くて調理が簡単なジャンクフードやファーストフードを食べるようになり、結果的に肥満になっていくというわけです。第1章は、貧困家庭の生活の現状を描いていますから、本書中で一番ショッキングかもしれません。
第2章は、「民営化による国内難民と自由化による経済難民」です。災害予防の仕事までもが民営化され、結果的にハリケーン・カトリーナで多数の死者を出すまでにいたったというのです。被害が大きかったニューオーリンズは、再建不能で、むしろ見捨てられているのだそうです。
第3章は、「一度の病気で貧困層に転落する人々」です。アメリカはとてつもなく医療費が高く、また、保険会社はなるべく医療費を安く抑えようとするため、無保険者が多くなってしまいました。無保険者が 5000 万人と聞くと二の句が継げません。病院までが株式会社になっているのだそうです。アメリカでは病気になったら破産するケースも多いと聞くと、いやはや大変な国だなあと思います。少なくとも、乙は住みたくありません。
第4章は、「出口をふさがれる若者たち」です。貧困層が経済的に困っていることを利用して、政府はそういう若者を軍隊に入れようとするようです。確かに軍隊は給料が高そうですが、もちろん命の危険性があるわけで、非常に厳しく、また残酷な話だと思いました。
第5章は、「世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」」です。軍隊に正規に入るのではなくて、民間の会社で、軍事行動を支援したりする会社があるのですね。そういうところに「就職」すると、イラクに送られるということになります。トラックの運転手などがたくさんいるそうです。これは軍隊ではないから、命の保証もなにもありません。現代の「傭兵」がここにいます。
本書は、そんなわけで、アメリカの知られざる一面を描いたといえます。アメリカは中間層が没落し、大きく儲ける一部階級の人々と、多数のワーキングプアに二極化しているのです。乙のブログで、先日、破綻した金融機関の経営者が多額の報酬を得ていたことを書きましたが
2008.10.10 http://otsu.seesaa.net/article/107860922.html
アメリカは、そういうことが普通にある国だと思います。
しかし、一方では、多数の貧困層を抱えているというのも事実です。アメリカ政府としても、そういう人たちとの関係において、軍隊や病院のあり方がどうであるべきか考えておく必要があります。もしかすると、WASP は、貧困層を食い物にすればそれでいいと考えているのでしょうか。厳しい国ですが、アメリカならばそう考える人がいても不思議ではありません。
本書は非常におもしろくて、一気に読んでしまいました。そうして乙が得た結論は「アメリカは病んでいる」ということでした。
アメリカは、世界を牛耳るすごい超大国であるとともに、貧しい人がたくさんいる国でもあるのです。新鮮な本でした。
本書を読み終わった後、乙は、アメリカに投資し続けていていいのかどうか、疑問に思えてきました。それくらいインパクトがある本です。新書をはるかに超えた価値があります。
本書は投資関連ブログでも取り上げられたことがあります。
http://orfeodor.blog118.fc2.com/blog-entry-317.html
http://blog.goo.ne.jp/kitanotakeshi55/e/06cdc99fdcb581fc6eef078501707821