乙が読んだ本です。「迫り来る通貨危機再来の恐怖」という副題が付いています。
著者の三橋氏は中小企業診断士だそうで、財務諸表などから企業の現状を分析し、アドバイスをすることが仕事だそうです。その手法で韓国を見たらどうなるかを述べたのが本書です。
本書の結論は、タイトルにあるとおり、「韓国経済はヤバイ」ということになります。
本書を読む前に、韓国のここ10年ほどの為替レートの変動を見てみましょう。
http://www.aceconsulting.co.jp/kawasekinri2.html
経験的に1円が10ウォンくらいが多かったので、だいたい10倍のレートと見ればよかったのですが、9月から10月にかけてウォンが急落しています。10月末の時点では、100KRW が 7.70 円ということで、大きく円高ウォン安になっています。
「韓国ウォン相場下落の構図」
http://www.jri.co.jp/RIM/2008/11korea.pdf
によれば、対ドルで見ても、ドル高ウォン安であることは明らかです。
本書が書かれた当時(2007年春ころ?)はウォン高だったわけです。2007年7月(本書の刊行時期)がウォン高のピークで、1ドル=918ウォンでしたが、最近は1ドル=1322 ウォン
http://quote.yahoo.co.jp/m5?a=1&s=USD&t=KRW
ということで、大変なウォン安です。
p.8 では、「ウォン高→輸出企業不振→経常収支赤字化→国内の資金不足→短期外債急増→資本収支黒字増加→ウォン高」という悪循環が書いてありますが、現在のウォン安状況でこれがどう変わったかも知りたいところです。
しかし、本書では、ウォンが高いか安いかという問題を越えて、もっと大きな「韓国での変化の傾向」を描いています。その点で、本書の記述の大部分は、ウォン安の現在でも当てはまるように思います。
さて、本書の内容を見ていきましょう。
第1章「六つ子の赤字」では、韓国が経常収支赤字、財政赤字、家計の赤字、企業の赤字、中央銀行の赤字に苦しむ姿を描いています。これに資本収支の赤字が加われば(そして実際にそうなりそうですが)「六つ子の赤字」になるということになります。
第2章「泥沼の国際収支」では、国際収支の数値がひどく、明確に近未来の破綻を示していると説きます。外貨準備高が急増しているのは、外国から短期でカネを借りているからだということになります。国際収支がなぜ赤字かといえば、それは旅行・留学・研修などのサービス収支の赤字が原因です。所得収支の赤字の原因は、上場企業の配当が大きく増加し、カネが外国人投資家に流れているのが原因です。経常移転収支の赤字は、韓国人が海外に送金しているからです。
第3章「円キャリーの逆襲」では、円キャリー取引で新興国のバブルが起こり、その後、円キャリー取引が日銀の利上げによって終わったことで、新興国から資金が一斉に引き揚げられ、現地通貨安が起こったことを説明します。韓国のウォン安もその一環だというわけです。
第4章「通貨危機再来の悪夢」では、韓国でも円キャリー取引が行われ、円建ての借金が増えているのだそうです。そして、そのカネが向かった先が不動産投機でした。今、円キャリー取引が終わったので、大量の円を返す必要があり、ウォン安円高が進行するとのことです。本書出版後の傾向を見事に言い当てています。ウォン安が進むと、円での借金を返せなくなり、デフォールトが起こるだろうとのことです。
第5章「韓国輸出企業の実態」では、輸出企業が国内の価格を高くしてここで儲け、海外では価格を下げて売り上げの数量を確保する戦略をとっていることを述べています。また、韓国の人件費が高く、労働生産性が非常に低いこと、日本から工作機械や高度な部品を輸入していることを述べています。
第6章「恐るべし全教組と平準化教育」では、韓国の大学教育が費用がかかりすぎること、学生の質が非常に低いこと、その原因は全国教職員労働組合にあるとしています。そのため、親は子供の教育を海外で行おうとして、外国への送金が増えているのだそうです。
第7章「植民地経済大国」では、アジア通貨危機によって、金融機関と主要企業の資本を外資に握られてしまい、現在は、高配当で資本が海外に出て行ってしまっていることを説明しています。
第8章「逆単身赴任の悲惨な現実」では、海外に子供と母親を送り出し、父親が韓国内で単身で稼いでいる状況を述べます。
第9章「深刻な国内空洞化」では、設備投資がまともに行われておらず、産業が空洞化しつつある現状を記述します。
第10章「KOSPI最高値の疑惑」では、株価が上昇しているように見えても、それは実は自社株買いによるものだとし、韓国人投資家も海外に投資する例が激増していると述べます。
第11章「崩壊する韓国社会」では、韓国の不動産バブルを描き、家計の赤字(つまり借金)が膨大であることを述べます。韓国の法定利息は年利 66% だそうです。こんなに高いとは、乙は知りませんでした。これで家計が赤字ということは、借金取りに多額の利息を払わなければならないということになります。韓国は格差社会になっており、中流層が激減してしまったとのことです。
第12章「急増する脱南者」では、人もお金も工場も、韓国を捨てて海外に脱出していると述べています。
第13章「GDP5.0%成長の謎」は、韓国の経済統計が間違っているという話です。ただし、乙の考えでは、ここは著者の解釈が間違っています。p.226 では、四半期ごとの GDP 成長率をもとに、1年間の成長率を求め、それが年間の統計値と違っている点を述べています。しかし、四半期ごとの結果を四つまとめたのでは、3ヵ月分の統計とその1年後の3ヵ月分の統計を比べていることになり、1年分と1年分を比べる年間成長率と違ってくるのは当然です。
第14章「報道の信頼」では、日本のメディアの問題(経済リテラシーが低い)を述べています。
本書は、一貫して、公表されている各種の統計数値を使い、韓国の経済状況をマクロに把握しようとしています。また、韓国の新聞記事を引用しつつ、それがどういう意味を持っているかを読み解いていきます。第13章以外の部分は、乙は納得しながら読み進めました。
ちょっと読みにくい部分として、これこれのことは後の第○章で述べるとする箇所が多いことがあります。問題ごとに整理して述べれば、こういう書き方は避けられると思うのですが、……。
それと、数表も本文にそろえて縦組みになっているのは読みにくいと思います。本文が縦組みでも、表だけは横組みにしてほしかったところです。
結論として、韓国への投資はしない方がいいということになります。
韓国関連のいくつかの記事
2008.11.13 http://otsu.seesaa.net/article/109598118.html
と同じ結論になりました。