読み始めてすぐの p.2 で2008年は大不況は来ない、それどころか次のバブルが始まると予想しています。「サブプライム問題は世界不況の引き金にはならない」や「ロシアや中東産油国は、高騰する原油価格の恩恵で潤い、ブラジルの株価は、連日のように市場最高値を更新し続けています。」とも述べています。
この本は、2008年7月の出版ですから、執筆時期はその数ヶ月前でしょう。山崎氏は、事態が自分の予想通りに推移してきたと誇らしげに語っています。
p.4 では、デカップリング論が語られ、先進国経済が傾いても、新興国経済は好調であるとしています。
2008 年 11 月現在では、山崎氏はこれらのことをどう思っているのでしょうか。機会があれば、直接お聞きしたいものです。一般的な認識としては、「世界同時大不況」だと思います。
第1章は「サブプライム危機は終わった!」です。p.21 では、2008 年1月、3月に書いた自分の記事を引用し、株式市場の暴落は終わり、再び上昇するとしています。pp.26-27 では、1929 年の大恐慌に言及して、現状は大恐慌とはほど遠いとしています。
11月現在の状況は、……多くの人は「100年に一度の危機」と感じているのではないでしょうか。
第2章は「新しいグローバル・バブルが生まれる」です。新しいグローバル・バブルとは、p.74 によれば、ブラジルやロシアの新興国だというわけです。
山崎氏は、経済の先行きについて、読み間違いをしていると思います。それだけ、経済予測は難しいのでしょう。7月に書かれた本を11月に読んで、ずいぶんと時代遅れのことを言っているなあと感じます。それくらいに9月から10月にかけての世界の株式市場の変化は大激変だったわけです。
第2章では、おもしろい記述も出てきます。p.88 では、現実の円キャリー取引のようすが描かれます。乙はまったく知りませんでした。何と、円はどこにも出てこずに、すべてドルで決済してしまうのだそうです。世界中でこんな円キャリー取引が行われているのだそうです。これでは、通貨をコントロールすることなんて不可能です。
第3章は「経済超大国となった中国が世界経済を一変させた」です。p.118 あたりで、なぜ中国が経済発展したかが語られます。アメリカの企業が中国に進出して各種生産を行いアメリカに輸出するようになっています。すると、実際に利益を得ているのはアメリカ企業ということになり、アメリカ政府や州に税金を払うことで貢献しているわけです。こうして、中国もアメリカもこれでよしと考えることになりました。アメリカにしてみれば、対日赤字と対中赤字はまったく別物ということになります。
本書は6章までありますが、以下は省略しましょう。
乙は、本の出版が恐ろしいと思いました。たった数ヶ月の間に経済状況が激変し、本の内容が古くなってしまうことがあるんですね。もしかしたら、著者としては大改訂したいと思うことがあるかもしれません。それでも、本は図書館に残され、執筆され出版された時の状態を未来にまで伝えてしまうのです。
本書は、11月現在で読むと、違和感が大きい内容でした。