2008.11.20 http://otsu.seesaa.net/article/109923545.html
の続編です。
ワーキングプアの実態を知らせるだけでなく、解決への道を模索しようとしています。
では、その答えは本書にあるか。残念ながら、解決への道が示されているとはいえないと思います。ワーキングプアの出現は、グローバル経済の進展など、世界経済の大きな流れの中で起こってきたものであり、簡単に解決できるようなものではないと思います。世界各国の取り組みなどを見ながら、日本ではどうしたいいのか、考えてみたいものです。
T「“非正規大国”〜韓国」では、韓国のワーキングプアを描きます。韓国は非正規雇用者が全労働者の半分以上もいるというのです。日本以上にすさまじい実態があります。p.58 では、韓国が日本の未来像だとしています。確かに、今のままでは日本も非正規雇用の大国にならざるを得ないように思います。
U「“ワーキングプア先進国”〜アメリカ」では、アメリカのワーキングプアを描きます。ここもまたすごいところです。堤未果『ルポ貧困大国アメリカ』
2008.10.18 http://otsu.seesaa.net/article/108249848.html
を彷彿とさせます。pp.87-88 では、アメリカの最低賃金が州ごとに違っている現状を述べ、「リビングウェイジ運動」ということで、地方自治体関連の仕事については、最低限度の生活ができる賃金を保障しようという運動があることを述べています。簡単にいえば、最低賃金を引き上げようということです。しかし、これでワーキングプア問題が解決できるかといえば、乙は否定的に見ます。最低賃金を高く設定しようとしても、結果的に、発展途上国への仕事の外注化が進むだけではないでしょうか。本当にアメリカの中でしかできない仕事は、外国に持っていけないでしょうが、それでも、外国からの移民があり、彼らが低賃金でも働こうとする限り、低賃金競争はなくならないように思えます。
V「貧困の連鎖を防げ〜イギリス」では、イギリスのワーキングプア対策が語られます。pp.113-119 あたりでは、若者 420 万人のデータベースを作って、個々人を徹底的にフォローしようとしている話が出てきます。イギリスでは、役所の人間が若者のいるところへ出かけていって(アウトリーチというそうです)、声かけし、各種相談に乗り、めんどうを見ていこうとしています。
p.120 では、イギリスの「社会的企業」の話があります。社会に役立つ事業をしながら、若者の職業訓練をしているそうで、これまた興味深い例でした。p.124 のように、職業訓練は、日本のように学校で行うのではなく、企業で行い、就職と直結させているとのことです。しかも、p.127 にあるように、職業訓練中にも「賃金」が出るのだそうです。新鮮な見方でした。
p.130 では、シングルマザー対策として、育児支援と就労支援が行われています。子供たちが無償で保育が受けられるとは驚きです。p.133 では、「チャイルドトラストファンド」の説明があります。生まれたときに、国から6万円ほどが振り込まれた口座がもらえるのだそうです。低所得の家庭に対しては、7歳になるとさらに6万円が増資されるとのことです。そして、このファンドは、子供が18歳になるまで引き出せないというしくみです。そこで、もらった時点では大した金額でなくても、18歳になったころには100万円を越える金額を手にすることができるというわけです。もっとも、年10%の運用ができたとしても、6万円+6万円が原資では、18歳で50万円くらいにしかならないのですが、……。ここは何か勘違いがあるのかもしれません。
このように、イギリスのやり方は驚きです。ここまで積極的にやるという判断が素晴らしいと思います。日本と比べると雲泥の差であり、参考になるように思いました。
W以降は日本の話ですが、最初にも書いたように、なかなか解決の道が遠いので、読んでいても暗澹たる気持ちになる面がありました。
投資の話とはだいぶ違う話ですが、こういうワーキングプアの人たちも、我々の仲間ですから、幸せになってほしいと思います。そのような道が、結局はワーキングプアでない人も幸せにしてくれるのではないでしょうか。
乙は、ワーキングプア問題をどうしたらいいか、何ともわかりません。投資は生活であり人生であると思っています。その意味で、ワーキングプアにも興味と関心を持ち続けたいと思います。