奥付のところの著者プロフィールによれば、中原氏はファイナンシャルプランナー(兼エコノミスト)だそうです。
乙は半分ほど読みましたが、とても最後まで読む気力が起きませんでした。
以下、問題点を中心に、乙の感想を書いておきます。
p.1 「はじめに」の書き出しからびっくりしてしまいました。「私はよく経済学部出身と勘違いされているようで、実は文学部で歴史学を専攻していたとお話しすると驚かれます。しかし、経済予測やその他の分野での予測がよく当たるのは、歴史学的なアプローチから予測を試みているからだと確信しています。」中原氏の議論は間違いです。もし、中原氏が正しいというなら、各証券会社などは歴史学を専攻していた人を大量に採用するでしょう。現実はそうなっていません。こんなことを最初に書くというだけで、本書を読む気はだいぶそがれます。
p.2 ll.1-2 「世界的に株式市場が下落基調となり、投資資金が商品市場に流れ込み、原油や金は市場最高値を更新して、その勢いはしばらく止まりそうにありません。」原油価格はその後どうなっているでしょうか。
http://www.kakimi.co.jp/4kaku/4genyu.htm
にあるように、2008年7月に最高価格 147 ドル/バレルを記録した後、大幅に下げ、現在は 40 ドル前後です。中原氏の予測は完全に外れています。(本書は 2008.7.26 発行です。)
p.2 「金融工学は、実践的には役に立たない」という驚きの主張です。こんなことを主張する人はきわめて珍しいでしょう。では、本当に金融工学は役に立たないか。p.126 で、外貨預金と国内株式の組み合わせ比率によって、リスクとリターンがどうなるか(U字形になる)を示した図が出てきます。これはまさに金融工学の成果の一つです。
p.3 歴史学、哲学、心理学を学べと述べた後、次のように述べます。「これらの3つの学問で身につけた能力が融合したときに、経済・市場の予測はもちろん、私たちを取り巻くありとあらゆる社会的事象を精緻に分析・予測することができるようになる可能性が高まるのです。
私たちが生きる世界には、確実なことはほとんどなく、どう転ぶか分からないことのほうが多くを占めています。」途中で段落が変わっていますが、中原氏は前半と後半が矛盾していることに気が付いていないようです。後半のように、世の中に確実なことがほとんどないならば、何をどう学ぼうと、それによって各種の予測ができるようにはならないのです。逆に、これら3つの学問を身につけることであらゆる予測の精度が高くなるならば、どう転ぶか分からないことはぐっと減ってくるはずです。
p.22 「「リスクのコントロール」とは?」という節です。こういう題名が付いている以上は、その節の中に解答があることを期待したいところですが、p.24 まで読んでも、「リスクのコントロール」(あるいは「リスクをコントロールすること」)が具体的にどのようにすることなのか、まったく説明がありません。p.24 には「コントロール」という用語が5回も使われるのです。使う前に、リスクのコントロールとは何か、明示してほしいものです。
p.37 では、国際分散投資の問題点として、世界同時株安などがここ数年見られるようになったとして、分散投資しても値動きが連動しているからよくないとしています。これは雑な議論です。(数十年以上の?)長期にわたって観察されたデータに基づいて国際分散投資がいわれているわけですから、ここ数年のデータを示して、以前とは違っているという主張は成り立ちません。世界の株価は相互に連動するときもあるし、連動しないときもある。それが相関が低いということの意味です。今の傾向は、たまたま連動しているだけだと考えることもできます。
p.41「金融商品を8つも持っていると、実質、個人では管理することができなくなると思います。」え? たった8つで管理できなくなるのですか。乙は 100 種類くらいの金融商品を保有していますが、
2007.11.23 http://otsu.seesaa.net/article/68476443.html
特に多いとも思いません。8つくらいで「多い」と聞くと驚いてしまいます。
p.42 個人投資家は、国際分散投資のために、バランスファンドを買って、そのまま漫然と放置しているケースが多いとしています。そして、投資家はそういう投資信託の価格が大きく値下がりして心配しているというのです。乙は、バランスファンドの放置もいいのではないかと思っています。値下がりしても、心配する必要はありません。「放置」なのですから、心配してもしかたがありません。ずっと放置してきたし、これからも放置しておけばいいのです。それを心配するから投資方針が定まらなくなるのです。中原氏のように、8つの金融商品が多いと考え、p.43 のように3〜4つに絞るというのは、集中投資になっているようなものです。これはリスクが高くなる投資方法です。
p.44 l.3 中原氏は自分自身を「異端なFP」と呼んでいます。当然でしょう。普通に考える投資の常識とまったく違った考えをお持ちなのですから。
p.58「このような過去4〜5年間で、「国際分散投資による長期資産運用」が成功することは当たり前のことだったのです。」と書いてありますが、長期投資というのは4〜5年の投資のことではありません。4〜5年の傾向で長期運用を目指しているのではなく、10年から20年、できたら30年でも40年でも時間をかけたいというのが長期投資です。中原氏の視点はかなりずれているようです。
p.58「世界の株価指数が最も上昇した4〜5年間、すなわち、最も都合の良いデータで検証が行われ、この運用方法は個人投資家の取るべき運用スタンスの基本とされるようになったのです。」ここは中原氏の勉強不足です。国際分散投資による長期資産運用というのは、そんなものではありません。ただし、株価については相当な長期データが残されているので、いいのですが、それ以外の金融商品については、各種データが長期的にきちんと揃っているわけではありません。しかし、4〜5年の傾向というのはあんまりな言い方です。
p.65 株価の上昇と債券の金利上昇が同時に起こることが多く、また下落するときは両方とも下落すると述べています。しかし、債券の金利の上下が問題ではなく、債券価格が問題なのではないでしょうか。債券は、金利が上昇すると価格が下落し、金利が下降すると価格が上昇します。したがって、株価の上下と債券価格の上下は逆になることが多いといわれています。中原氏の議論は、債券の金利の上下と債券価格の上下を混同しているように読めます。(ここは乙の読み違いかもしれませんが。)
全 269 ページの本ですが、乙は読み通せませんでした。あまりに多くの問題点があると思ったからです。本書はオススメできません。
ゆうきさんも本書は「オススメできない」としています。
http://fund.jugem.jp/?eid=888
中原圭介氏はブログ
http://blog.livedoor.jp/asset_station/
をお持ちです。乙は以前から RSS に登録していたのですが、この際、RSS から削除することにしました。