とても面白い本で、乙は一気に読んでしまいました。
本書は、いろいろな商品やサービスの「価格」がどうなっているのかを見ながら、経済学的に考えていこうとするもので、著者の視点の広さが感じられます。
第1章は「クルマとプリンターとPB商品、価格の決まり方はどうちがうのか?」です。価格の決まり方をめぐって、具体的な題材を取り上げながら論じています。なるほどなあと思わせる記述がたくさん出てきます。
第2章は「高級レストランの格安ランチが、十分に美味しいのはなぜか?」です。「追加コスト」という考え方できれいに説明しています。p.78 では、店が混むからランチが安くなるという話が出てきて、なるほどと思わせます。
話には納得できるのですが、一消費者としては、同じものがランチで 1000 円で、ディナーで 3000 円で提供されていたら、それはやっぱりランチで食べる方がいいと思うでしょう。ですから、ランチの方がディナーよりも少しだけ品質を落としている場合が多いと思います。しかし、それでも、ここで述べられている説明は当てはまります。高級レストランの味を楽しむには、ランチが一番いいということですね。
また、pp.78- では、タクシー料金についても、もっと規制緩和をすることで安くなることがあると論じています。pp.85- では、高速道路料金についても、もっと工夫することができるとしています。いずれも貴重な提言だと思いました。
第3章は「パチンコや金取引で必ず儲ける方法は、ときに本当に存在する?」です。タイトルに引かれて、手軽に正解を求めようとすると、がっかりすると思います。しかし、さまざまな裁定取引の例が出てきて、この章も興味深いです。
pp.102-106 では、パチンコ屋が1玉1円と1玉4円の2種類の玉を売る話が出てきます。こういうときに「裁定」が効くんですね。パチンコ屋の話かと思っていると、p.106 から、金と銀の交換レートと同じことだということになり、さらには金とドルの交換(金本位制)の話になります。こういったふうに、身近な話題とマクロな経済学の話を結びつけて説明するあたりは、本書の大きな特徴でしょう。
p.130 では、中国での偽ブランド販売が銀座を潤しているという話が出てきます。こんなものの見方は乙は全く気がついていなかったので、「へえ!」でした。
p.140 では、フードマイレージという考え方のおかしなところを指摘しています。何となくもやもやと感じていたものをずばりと指摘されたような気分です。
第4章は「ライバル企業が、互いに不幸になる競争を止められないのはなぜか?」です。オークションや価格設定での駆け引きを説明しています。この章も面白かったです。p.153 では、セカンドプライスオークションという考え方が説明されますが、これも乙が知らなかったことなので、とても興味を持ちました。最高額で入札した人に、2番目に高額に付けられた値段で売るということです。とてもいい制度だと思いました。
第5章は「大学の授業料は、これからも上昇を続けるのだろうか?」です。実際、今の大学の授業料(特に私立理系)はずいぶん高いので、ぜひ、安くしてほしいものですが、著者によれば、そういうことも不可能ではなさそうです。それを実現するための具体的な提案も書いてあります。しかし、日本社会では、なかなか受け入れられない考え方でしょう。大学をどうするかは、文科省だけでなく、さまざまな立場の人がそれぞれの立場から発言するので、国民的合意が得られにくいテーマだと思います。
第6章は「地球温暖化対策に、高すぎる価格がつけられようとしている?」です。排出権取引についての考察です。ここでも、排出権取引に関する著者の具体的な提案が盛り込まれ、なるほどと思いました。
p.279 からの「おわりに」では、本書で出てきたさまざまな題材が金融と深く関係しているということが書かれています。確かにそうです。
この本は投資を心がける人が読んでも役に立つものだと思います。おすすめに値する良書だと思います。
ラベル:吉本佳生