第1章「「団塊の世代」は逃げ切れるか?」では、団塊の世代も「逃げ切れない」ということを述べています。p.31 あたりでは、退職後の経済生活のアンケートに基づき、世代別の態度を次のように規定しています。
・おびえる20代
・運用できない現役
・反省するシニア
なるほど、ポイントを突いています。それぞれにうまくいかないものなんですね。
では、実際退職後の生活はどの程度なのでしょうか。年金に加えて、推定退職金と手持ち資産を余命35年で割るという計算をしています。その結果、退職後に使えるお金は、平均で1年間に328万円だそうです。退職前に700万円くらいの収入があったことを基準にすると、なかなか厳しい現実が待っているようです。
第2章「人生を左右する「五つのリスク」」では、退職後のリスクとして次をあげています。
(1) 思った以上に長生き
(2) 減らない退職後の生活費
(3) 忍び寄るインフレ
(4) 「引き出しすぎ」の恐さ
(5) 偏った資産構成
かなりのページ数を割いて、それぞれのリスクを説明しています。
p.66 で「平均寿命を全うできる確率は「50%」ということになります。」と書いていますが、これは厳密には間違いです。平均寿命が「中央値」ならば、正確に50%になりますが、「平均」であれば50%ではなくなります。平均寿命が 79.19 歳であれば、平均よりも若いほうで0歳から79歳まで死ぬ確率があって、一方では、79歳以上で死ぬ確率もありますが、100 歳を越えて生き延びる確率はそんなに大きくなく、だいたい80〜90歳くらいで死ぬとします。平均を計算するとき、若い人が1人死ぬと、(平均の)79歳から大きく外れます(小さな値になります)。一方、79歳以上の人は+10年くらいのところに集中して死にます。つまり、死ぬときの年齢分布は正規分布のような山型分布でなく、若いほうに裾野が伸びた形(そして高齢のほうはストンと切れる形)をしています。ですから、平均寿命よりも年長の人のほうが50%以上になり、年少の人は50%未満になるのです。
pp.113-115 では、引き出しすぎの恐さを説明していますが、引き出しながら使っていくときは、マイナス運用があると、早く資金が枯渇することがあるとのことです。p.113 の表が印象的です。同じ収益率の表なのですが、21年間にわたって平均収益率 10.4% でシミュレーションしています。そして、21年にわたる収益率を前後を入れ替えて表にしています。すると、最初の3年にマイナスが集中して現れるような不幸な場合、途中で残額ゼロになってしまいます。これはなかなかおもしろい話でした。はじめにマイナスにならないことが重要だというわけです。
p.124 では、アメリカの年齢別の株式保有率のグラフが出ています。それによると、高齢者でも資産を株式に振り向ける割合が高いことがわかります。70歳くらいからはさすがに株式の比率が下がってきますが、60代まではけっこう高いと思いました。「100-年齢」が株式の比率だなんていえません。興味深いデータでした。もっとも、アメリカは格差社会ですから、株式に投資しているのは金持ちが多いということかもしれません。「普通の人」がどれくらい株式に投資しているかはよくわかりません。
pp.128-130 では、アンケート調査で1年間で年金以外にどれくらいのお金が必要かと聞いています。平均値は186万円です。また、総額ではいくら必要ですかと聞くと、平均3044万円だったとのことです。割り算してみると、たった 16.4 年分でしかないのです。これでは(退職を60歳とすると)76歳で資産が尽きてしまうのです。多くの人はまじめに退職後のことを計算しているわけではないことがわかってしまいます。
第3章「経済的自由を掴む資産設計術」では、投資の話です。
p.147 では、75歳まで運用するという話が出てきます。現役時代は「働きながら運用する時代」、60歳から75歳までは「使いながら運用する時代」、75歳以上は「使う時代」です。乙は、退職までの15年くらいを考えて投資を始めたのですが、もっと先のことを考えておくべきだという意見です。なるほど、その通りですね。
p.175 あたりでは、国内移住(都市から地方へ)も考えるといいという話で、確かに、そういう面もありそうです。乙は、海外移住を考えたりしましたが、
2008.2.19 http://otsu.seesaa.net/article/84738236.html
2008.2.18 http://otsu.seesaa.net/article/84564177.html
それよりも現実的かもしれません。選択肢の一つとして考えておきたいところです。
本書は、新書でありながら中身が濃い本です。退職後(老後)の生活のことを考える上で大いに参考になりそうな本です。誰でも経験する「老後」ですが、それがどういうものかは、実際そうなってみないとなかなかわからないものです。