出版時期から考えて、今回の金融危機に関する本だろうと考えて読んでみることにしました。しかし、もっと壮大なスケールの内容が詰まった本でした。
第1章「日本の凋落」では、今の日本は通り一遍の改革でなく、明治維新的な大変革をしなければどうしようもないと論じます。p.26 では、日本が規格大量生産を目指したけれど、それは人類文明の方向と違っていて、そのために90年代以降に日本が凋落したのだと説明しています。目が覚める思いがしました。
では、どんなことがこれから必要になるでしょうか。堺屋氏は、自由貿易協定(FTA)と外国からの移民で開国せよとのことです。そして、公務員制度を改革して天下り全廃、道州制の導入、金融・財政の発想の転換、教育改革(規格大量生産向きの人材育成でなく、独創性と個性のある人間を育成しよう)などが説かれます。もっともな提言のようにも思いますが、こんな大きな改革が実現できるでしょうか。どうやって実現できるでしょうか。今の政治家を見ていると、到底不可能としか思えません。
第2章「日本とは何か」では、歴史分析から日本のあるべき姿を探ります。ここも雄大な話が展開されます。
第3章「「団塊の世代」が日本を変える!」では、団塊の世代に期待を表明しています。高齢者をうまく活用しようという趣旨です。これまた、ちぢみ行く日本に対して、興味深い提言でした。なお、p.85 では、合計特殊出生率のグラフが示されますが、3箇所で「%」が付いています。たとえば、2006 年は 1.32% というような具合です。もちろん、単位は「人」ですから「%」を付けてはいけません。堺屋氏の勘違いでしょう。しかし、3箇所もあるとなるとミスプリでは済ませられません。
第4章「知恵の時代こそ、「個性」が大切」では、アイディアによる地域興しを説いています。p.139 では、そういうアイディアなしでは日本はアジアの田舎になってしまうと警告しています。では、どんな地域興しのアイディアがあるのでしょうか。あくまで一例ですが、p.144 では、原子力発電所の廃熱を利用して、2km の長さのコースを持つプールを作ろうと述べています。あっと驚きますが、実現は可能だし、乙はけっこうおもしろい話ではないかと思いました。
第5章「大きく人類文明が変わる局面に来た」と第6章「世界を創った男チンギス・ハンに学ぶ」は、全世界の歴史を見ながら、今後の展望をしています。p.225 では、チンギス・ハンの孫のフビライ・ハンは、史上初めて不換紙幣を発行したと述べています。現在の米ドルにも通じる話です。そして、米ドルは80年くらいは保つのではないかとしています。1971年に米ドルがペーパーマネーになったわけですから、2050 年ころまではドルが大丈夫だとしています。そんなものでしょうか。乙はそのころには死んでいると思いますので、まああまり影響は受けないと思いますが、歴史を知ることは未来を考える上でおもしろいと思いました。
最終章「新代「知価社会」の誕生」では、知価社会こそが世界危機脱出の唯一の方法だと説きます。大きな文明の流れが変わったのだから、それに適した方向に変わらざるを得ないというわけです。上述のように、乙は今の日本では、そういう「変化」はきわめてむずかしいように思います。このまま「凋落」が続いていくのではないでしょうか。
本書は、スケールの大きさが一番の売りでしょう。ただし、書かれている内容は、著者の以前の本を読んでいる人には繰り返し的な印象を受けるのではないでしょうか。乙は、きちんと堺屋氏の本を読んでいるわけではないですが、いろいろなところで(雑誌記事などで)見かける堺屋氏の主張などと一致していて(それは当然ですが)既読感がありました。まあ、まとめて読んで堺屋ワールドにひたるのも悪くないと思います。
ラベル:堺屋太一