乙が読んだ本です。「ワーキングプア」とも重なってくるテーマです。
著者の水島氏は日本テレビのチーフディレクターとしてドキュメンタリーなどを製作してきた人です。そういう人が「ネットカフェ難民」を取材してできあがったのが本書です。
ちなみに「ネットカフェ難民」は水島氏の造語だそうです。
本書では、取材に応じた人の話が詳しく語られます。その実態を知ると、何ともいたたまれないような気分になります。現実に悲惨な人がいるわけです。全体を読み終えて、暗い気分になってきました。
しかし、だからといって、乙が個人として何かできることがあるかと考えれば、なかなか簡単にできることはないわけで、まじめに働いて税金を払うことで、間接的にそういう人の手助けをしているに過ぎません。
乙が本書中の記述で驚いたこともいくつかありました。
まずは、p.114 で、日雇い派遣に従事する人に対して、会社側はかなり細かい風貌チェックを行っているということです。「容姿優、容姿老、不潔感、言葉遣い、ヒゲ、茶髪、長髪、太め、虚弱体質、メガネ、40歳超」などを見ると、さもありなんとも思えますが、ここまで細かく記録するものかという気もしました。人材を派遣する会社としては、派遣社員がどんな人かを知らずに派遣するわけにはいかないでしょうから、こういうデータをインプットしておいて、応募してきた人の中から、派遣先に合いそうな人を選んで派遣するのは当然のように思います。それにしても、徹底して個人情報を集めているのですね。
本書中では、こういう分類を廃止するよう要求したとありますが、会社側は応じるものでしょうか。こういう情報をためておいて、募集条件にピッタリの人を探して派遣することで会社としての存在価値が出てくるわけで、誰でもどこでも派遣するのでは、会社の意味は少なくなります。
pp.118-119 では、あるテレビ局が、ネットカフェ難民で日雇い派遣をしている人を取材として撮影しようとしたところ、会社が驚いて、その人をクビにしてしまったという話です。こんなことで職を失うことになったその取材対象者が気の毒ですし、テレビ局の暴力性さえ感じられます。
本書は、ネットカフェ難民をあるがままにとらえることに成功していると思いますが、次のステップとして「ではどうしたらいいか」までは述べられていません。ジャーナリズムの限界のようなものを感じました。まあ、誰が考えても易しい解決策などはあるわけないと思うのですが……。