日経新聞7月12日の社説に「正規、非正規社員の壁を崩す電機連合」という記事がありました。
その中で、電機連合
http://www.jeiu.or.jp/が定期大会で決定した新しい賃金政策について好意的に紹介しています。
簡単にいうと、非正規社員の賃金制度を正社員に近づけ、両者の壁を崩そうという案です。
乙は、これを読んで、おやおやと思いました。これが本当なら、電機業界の未来は暗いものになりそうです。
確かに、現状は正規 vs. 非正規の格差は大きいと思いますし、それが社会的に問題だというのはわかりますが、その解決の方向は、正社員の賃金制度を非正規社員に近づける(あるいは両者の中間的なものとする)しかないものと思っていました。
そもそも、日本は少子化が強まり、働く人間が減りつつあります。消費する人間も減ります。会社が大きくなることは必ずしも期待できません。そのような縮小再生産が見込まれる日本で、働く人々の賃金だけが上がっていくなんてことはあり得ません。昔(高度成長期)は、人口ピラミッドを見てもわかるように、老人が少なく、若い人が多く、今と反対に、会社の中の職階のピラミッド構造がそのまま機能したように思います。日本社会がどんどん豊かになったし、個人レベルでもそれが期待できたし、会社が大きくなっていく途上で管理職もどんどん必要になったわけです。キャリアアップも賃上げも、そのような状況の変化にともない、比較的楽に実行できたでしょう。
もう一つは、諸外国との関係です。昔は、為替レートは1ドル 360 円に固定されていました。(180 円で握れるものはなあんだ? 答えは「ハンドル」なんてクイズもありましたっけ。)ですから、外国との関係を考える必要は(少なくとも表面的には)なかったと思います。しかも比較的円安水準でしたから、輸出しやすい環境だったわけです。しかし、今や為替は変動相場制になり、基本的な流れとして円高が続いていますから、新興国との競争も考える必要があります。これを言い換えると、新興国でもできるような仕事は、新興国並みの賃金しかもらえないということです。電機連合の人たちの仕事はどうなんでしょうか。非正規社員のできる仕事は、たぶん、新興国の労働者でもできるのではないでしょうか。だから、そういう人の賃金は下げざるを得ません。それが現状です。
もしも、今の日本の諸制度をそのままに、非正規社員の賃金を正社員並みにすると何が起こるか。企業は、人件費の上昇に悩むことになります。その結果、当然の選択として、日本人非正規社員を雇うよりは新興国の労働者を安く雇うほうがいいということになります。外国人の非熟練労働者を日本に連れてくることは困難ですから、企業が日本を見捨てて海外に流出するということになります。日本ではその分の失業が起こります。もう、現状でそうなっていると考えてもいいのではないでしょうか。
企業の「海外進出」というとかっこいいですが、「海外流出」と見てもいいと思います。こうして日本全体が没落するのです。
一部の人が主張する、国内の最低賃金を上げようなどという動きも同じ結果を誘発します。
企業の正社員が新興国の賃金よりも高い賃金をもらうことが可能なのは、それだけの生産性を上げること、あるいは、諸外国との競争が(少)ない(つまり非関税障壁などで守られている)ことなどの条件下においてです。接客業の人たちは、日本人との日本語によるコミュニケーション能力が必須ですから、高い賃金がもらえるけれど、製造業の人たちは、普通に考えれば、高い賃金がもらえるはずがありません。
もちろん、今の日本は正社員のクビを簡単に切れないのですが、だからこそ、非正規社員が増大したといえるのではないでしょうか。
正規、非正規の問題は、日本社会のあり方にも影響する大問題です。
乙は、少なくとも、電機連合のようなやり方で長期的かつ安定的にこの問題が解決できるとは思えません。