2009年09月27日

冨山和彦・松本大(2008.12)『この国を作り変えよう』講談社

 乙が読んだ本です。「日本を再生させる10の提言」という副題がついています。
 著者二人がそれぞれの章を書き、最後にそれらをまとめて10の提言とするというスタイルで書かれています。
 提言の中のいくつかについて、乙の意見を述べます。

2 世代別選挙制度の実現
 基本的認識として、今の中高年世代が若者世代(さらには今後生まれてくる人たち)からカネを奪っているという立場に立っています。そのような現状を変えていくために、20代から60代まで年齢で選挙区を変えて各世代の議員定数を人口比とするというアイディアです。
 本書には書かれていませんが、当然、20代選挙区に立候補できるのは20代の人なのでしょうね。
 70代の人はどうするのでしょうか。80代の人は? 90代の人は? 「何歳から上」はひとまとめというわけにはいかないと思います。(衆議院の?)全体の議員定数を人口の年齢構成比で案分して、選挙区定員が1以上になるならば、当然、その世代の選挙区がもうけられてしかるべきです。それを無視する案はまずいと思います。
 年齢別に考え方が違うし、将来への展望なども異なるので、世代別選挙区をという趣旨は理解できるのですが、だったら、国内で人々の間の大きな差を生むもう一つの要因=性別についても考慮するべきでしょう。男性と女性では興味や関心も異なるので、選挙区も男女を分けることにしたいと思います。
 とすると、20代男性選挙区、20代女性選挙区、……ということになりますが、これはこれでいいのかもしれません。結果的に議員の約半数が女性になり、先進国としては政治への女性の進出度が極端に低い現状をあっという間に解消できます。
 今の地域別代表の仕組みを根本的に変えるやり方なので、各種抵抗も大きいと思いますが、地域別選挙区の1票の重みの不平等を考えると、いっそのこと、世代別選挙区にしてしまうというアイディアもおもしろいと思います。実現すれば日本の社会が大きく変わるでしょう。

10 戸籍制度の全廃と婚外子の権利制限撤廃
 抜本的な少子化対策として戸籍制度を全廃するという案ですが、乙は賛成できません。婚外子の権利制限撤廃の方は納得できます。
 具体的な議論は、p.104 から書かれていますが、戸籍を撤廃する理由が不明確です。なぜ戸籍を撤廃すると少子化対策になるのでしょうか。戸籍制度に問題があるから少子化だという議論は説得的ではありません。
 戸籍制度がなくなると、マイナス面がたくさん出てきます。まず、親子関係が記録されませんから、遺産相続問題が真っ先に問題になるでしょう。また、夫婦関係も記録されませんから、結婚・離婚制度も意味がなくなります。となると、夫婦間で扶養の義務もなくなり、夫婦のうちの収入の少ない側(ほとんどは妻側)が多大な不利益を被ることになるかもしれません。これらに関連して、訴訟が頻発して裁判制度が機能麻痺になる可能性もあるでしょう。次に、諸外国との関係において、パスポート(外国に対する当該人が日本人であることの証明書)の発給の問題が生じます。戸籍がないと、「日本人であることの証明」がしにくくなりますから、パスポートの交付の手間が増えると思います。それ以外にも、破産の処理、犯罪の記録、住民基本台帳との関係など、各方面での混乱は膨大なものになり得ます。戸籍制度が日本社会を安全な(不安のない)社会にしている面は非常に大きいと思います。
 戸籍がないことのマイナスを考えると、戸籍をなくすというのは、乙には暴論のように思われます。

 本書の提言はおもしろいと思うようなものもあるのですが、ちょっとした思いつきのようなものも含まれ、10個の提言がバラバラな提言にとどまり、全体として日本をどの方向にリードしていこうとするのか、理解できない部分もあります。
 こんなことをマニフェストに書く政党があったら、きっと全議員が落選するだろうと思います。

ラベル:冨山和彦 松本大
posted by 乙 at 05:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。