タイトル通りの本で、日本をどうするといいのか、明解に語っています。
こういうのを1冊読むと元気になります。
第1章「「年金と税金」で国民の「安心と意欲」を作り出せ」では、年金と税金をどうするべきかを論じています。
p.31 から、高齢者に年金を辞退させる案が書いてあります。「えっ」と驚く新発想です。辞退してくれる人には所得税を安くしたり相続税をゼロにするという考え方です。こうすると、確かに、資産家などは年金を辞退するかもしれません。しかし、辞退する人は、辞退することで結局トクをすると考える人たちですから、国家レベルで見ると、年金か税金かのどちらかが安くなって、結局、国としては実入りが少なくなるように思うのですが、それでいいのでしょうか。
p.34 では、年金を3割カットという案が出てきます。あるいは毎年5%減です。これまた思い切った提案です。今のように高齢者が若年層よりも多く、かつ選挙のときの投票率が高齢者のほうが若年者よりも高い場合は、こういう提案が通ることはなさそうです。しかし、データを示して、これが筋道だと説く大前氏の議論には説得力があります。
p.68 からは「50兆円国家ファンド」を創設し、日本人すべてが「10%利回り」を手にする社会を実現せよと説きます。確かに、そうできれば言うことなしですが、「10%」の利回りは不可能だと思います。大前氏は、外国での大規模・長期投資や株式、不動産、デリバティブなどで運用すれば可能だと考えているようですが、乙はそうは思いません。それらの期待リターンは10%まで行かないはずです。p.72 では、実際10%が実現できた例を挙げていますが、それらは全部ドル建てであり、円建てならば、この間の円高傾向を考慮すると、プラスになっているかどうかさえあやしいものです。国家間で金利差がある場合、長期的には高金利国の通貨は下落し、低金利国の通貨は上昇するので、ドル・円の金利差が数%ある状態が今後も長く続くならば(今まで長く続いてきたのですから、そう考えるほうがいいと思いますが)、それだけで10%の利回りは不可能ということになります。
第2章「経済を復興し、産業を興せ」もおもしろい話がたくさん出てきます。
p.106 から、食糧安保の話が出ます。基本は「真の食料安保は「世界に打って出る農業」で実現せよ」ということで、日本人が、その知識と技術を持って外国で穀物などを生産し、それを日本に輸入するというアイディアです。第4次農業基盤整備事業費として、1993-2006年に41兆円も使ったとのことですが、それで農業がどうなったか、さっぱりわからないと述べています。だったら、そのカネを使って、世界中の農地と穀物メジャーを買うほうがいいというわけです。4大穀物メジャーを全部買っても 8.8 兆円程度だろうと推計しています。乙も、日本国内の農業を見ていると産業として成り立っていないと思うので、大前提案には同感しました。
なお、最近、日経ビジネスONLINEで連載の始まった「漂流するコメ立国」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20091013/206964/
も、関連して興味深いと思います。
第4章「憲法改正と道州制で「新しい国家のかたち」を作れ」では、道州制のあり方や国会のあり方など、根本的な改革案を示していますが、その中に、p.214 で、重要案件については国民投票で決めるとしています。これはうまくいかないのではないでしょうか。技術的には、国民投票は可能ですが、今の国民の関心と知識のレベルでは、国民投票はとんでもない結果になりそうです。いくつかの国民投票では矛盾した選択がなされるでしょう。たとえば、増税には反対、各種財政支出には賛成、国債の追加発行には反対というような結果になりそうです。そんなことで国家が運営できるとも思いません。
本書では、いくつか問題に思うところもありますが、こういう大きなビジョンを全体として示されると、なるほどなあと思える面があります。まあそう簡単に実現できるとも思えませんが。
こういうビジョンが示せる人が政治家(国のリーダー)になるべきでしょうね。とはいえ、日本の選挙の実態を考えると、こういう人はなかなか当選できないでしょうが。
それこそが日本が衰退していく道なのですが、誰も気がついていません。