2009年11月30日

ジェレミー・シーゲルの「成長の罠」は新興国に当てはまるか(3)

 以前のブログ記事
2009.11.29 http://otsu.seesaa.net/article/134198101.html
の続きです。ジェレミー・シーゲルの『株式投資の未来』に関する考察を続けます。
 同書の p.262 には、図16-1「二国物語――中国株とブラジル株のリターンとGDP成長率」というグラフが掲載されています。
シーゲル図16-1.jpg
このグラフは、1992年から2003年までのブラジルと中国のGDP成長率とそれぞれの株式のリターンを示したものです。そして、ブラジルはGDPがあまり成長していないのに対して、株式のリターンが大きく、中国はGDPがぐっと大きくなっているのに、株式のリターンが小さい(それどころかマイナスである)としています。
 さて、この図16-1 が正しいのかどうか、あまりシーゲル氏を疑ってはいけませんが、ちょっと調べてみましょう。
 まずはブラジルと中国のGDPについて調べてみました。以下、1986 年から 2005 年を示します。
ブラジル
中国
名目GDP
総額
実質GDP
成長率
名目GDP
総額
実質GDP
成長率
1986
268,082
7.7%
295,476
9.6%
1987
294,311
7.1%
321,391
8.8%
1988
328,495
0.0%
401,072
9.4%
1989
447,473
0.0%
449,104
5.1%
1990
465,051
0.5%
387,772
3.8%
1991
407,751
1.1%
406,090
9.2%
1992
390,594
-0.6%
483,047
14.2%
1993
438,433
5.0%
601,078
13.5%
1994
546,222
5.8%
542,534
12.6%
1995
704,175
4.2%
700,219
10.5%
1996
775,025
2.6%
816,490
9.6%
1997
801,577
3.6%
898,244
8.8%
1998
787,742
0.1%
946,317
7.8%
1999
536,633
0.8%
998,678
7.6%
2000
601,732
4.4%
1,079,191
8.4%
2001
508,433
1.3%
1,191,157
8.3%
2002
460,838
1.9%
1,303,590
9.1%
2003
505,732
0.5%
1,470,699
10.0%
2004
603,948
4.9%
1,720,401
10.1%
2005
799,413
3.3%
1,981,648
9.9%


 名目GDP総額の単位は 1990 年不変価格による百万米ドル単位です。

 この数値の出典は、
1986-89年:「国際連合世界総計年鑑1994」表20「国内総生産、合計および1人あたり」
1990-97年:「国際連合世界総計年鑑1998」表18「国内総生産、合計および1人あたり」
1998年:「国際連合世界総計年鑑2005」表17「国内総生産、合計および1人あたり」
1999-2005年:「国際連合世界総計年鑑2006」表16「国内総生産、合計および1人あたり」
です。図書館で数値を丸写ししてきました。
 年鑑の毎年度版で、数値が少しずつ違うのですが、後日の訂正などが反映されているためでしょう。
 ちなみに、ネットでは
http://www.brics-jp.com/china/gdp.html
に 1998 年からの中国のGDP成長率がありますし、
http://www.brics-jp.com/brazil/gdp_brazil.html
に 1998 年からのブラジルのGDP成長率がありますが、それぞれは上の表とほぼ同じもので、IMF のデータだとしています。
 さて、上の表を基にブラジルについて計算してみましょう。
 1992 年から 2003 年までの名目GDP成長率は
505,732/390,594*100-100=29.48%
となります。また、同じ期間の実質GDP成長率は
0.994×1.05×1.058×1.042×1.026×1.036×1.001×1.008×1.044×1.013×1.019×1.005=1.336537
ということで、33.65% ということになります。
 シーゲル氏の図16-1 では、ブラジルのGDP成長率が 1992 年から 2003 年までで -6% となっていますが、この数値がどこから出てきたのか、わかりません。

 中国についても、同様の計算をすると、1992 年から 2003 年までの名目GDP成長率は 204.46%、実質GDP成長率は 214.27% になります。
 シーゲル氏の図16-1 では、中国のGDP成長率が 1992 年から 2003 年までで 86% となっていますが、この数値がどこから出てきたのか、わかりません。
 普通、GDP成長率といえば、インフレやデフレなどが関わってくる「名目」でなく、「実質」のほうをとると思います。
 まあ、ブラジルよりも中国のほうが高成長だったという結論は変わりませんが、乙は、シーゲル氏の主張にちょっとだけ疑問を感じました。
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posted by 乙 at 06:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連の話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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