本書は、全体として、マイクロ法人(ひとりが社長であり、同時に従業員であるような組織)を勧めるという内容です。1章と2章がマイクロ法人を活用しようという趣旨です。3章では会計の問題を扱います。4章では税金の問題を、5章ではファイナンスの問題を扱います。以前の橘氏の著作と重なるところもあります。
普通のサラリーマンがマイクロ法人を作るかという問題では、まず、会社側の考え方が重要でしょう。会社の中に普通に雇用される人とマイクロ法人に所属し、業務委託で働いている人がいて、会社がうまくやっていけるのでしょうか。将来、幹部社員にしたいと思っているような人にマイクロ法人を認めてしまっていいものかどうか、微妙な問題もありそうです。
実際、マイクロ法人を作るかどうかとは別に、もしも作ったとしたらということを考える上では、大いに参考になる1冊ということになるでしょう。
そういえば、ずっと前に、乙は妻に会社を作ることを勧めて、「1円で起業する方法」とか何とかいう本をプレゼントしたのですが、無視されてしまいました。実際、妻は会社内で個人会社みたいな仕事をしていたのにです。それくらい、妻は会社べったりだったということです。
本書には、いろいろとおもしろい記述がありました。
p.49 あたりで、日本の雇用制度を映画館にたとえている点は秀逸です。すでに映画館に入ってしまった人たちは、そこ出たくないし、入りたい人は列をなして待っているというわけです。これに関して、単純な解決策はありません。
p.60 あたりでは、アメリカでも 1950-1960 年ころに会社主義(組織人)の考え方があり、今の日本と似たような状況にあったとしています。その後、フリーエージェント化してきたというわけです。したがって、p.66 で述べるように、日本もフリーエージェント化するべきだ(そうなるだろう)ということになります。
p.88 では、ネットカフェ社長という考え方が語られ、たいへん興味深く思いました。「個人」としては、ネットカフェ難民はそこを抜け出ることがむずかしいのですが、起業してしまえば、「個人」よりもずっと立派に見えるという話です。
p.99 アメリカのフリーエージェントがマイクロ法人を設立する一番の理由は、個人事業主だと無限責任を負う必要があるが、法人だと有限責任で済むからだとしています。新しい見方でした。
p.290 では、新銀行東京が行った無担保無保証の融資がなぜ不良債権化したかを述べています。融資先を紹介する信用金庫などにしてみれば、信用保証協会の保証が受けられるような優良企業は、自分の優良顧客だから、新銀行東京に紹介するはずはありません。中小企業にしても、非常に低コストで資金調達ができるようになっているというわけで、新銀行東京が顧客として考えていたミドルリスクの資金がほしい中小企業などはそもそも存在しないということです。明解な説明で乙は素直に納得しました。
日本の仕組みを考える上で、とても興味深い本だと思います。
参考記事:
http://koutou-yumin.seesaa.net/article/132907762.html
ラベル:橘玲