大きな見出しで「ETF 市場 日本出遅れ」と書いてあります。その下には「商品数4倍、残高は4割減」とあります。記事の趣旨は、日本の ETF は、さまざまな種類が上場されるようになってきたが、残高が大きく減っていて資金が流出しているということです。
記事を一部引用します。
米運用大手ブラックロックの調査によると、2009年末の世界のETF残高は前年比45%増の1兆323億ドルとなり、過去最高を更新。一方、日本のETFは9%減の2兆2907億円と3年連続で減少した。世界の市場では新興国の株式や債券に投資するETFに資金が流入したが、日本の市場ではETF残高の大半を占める国内株の資金流出が続いた。
記事にはグラフまで付いていました。以下、スキャナで取り込んで引用します。
この図を見ると、ETF の純資産残高が大きく減少していることがわかります。
では、これがすなわち日本のETFから資金が流出していることを意味するのでしょうか。
そうではありません。
記事にも書いてありますが、日本のETFは国内株に投資しているものが多いのです。国内株は、過去数年を見ると、成績が振るいません。つまり、ETFの資金流出ではなく、単に国内株の株価が下がっただけではないでしょうか。
そこで、これを確認してみます。
引用したグラフを目で読み取って、純資産残高を見てみました。拡大コピーして、目盛りに合わせて等間隔に直線を引き、定規を当てて 0.5mm 程度の誤差で読み取りました。
資産残高 | 1年騰落率 | |
2006.12 | 4兆1625億円 | |
2007.12 | 3兆9500億円 | -5.11% |
2008.12 | 2兆5625億円 | -35.13% |
2009.12 | 2兆3375億円 | -8.78% |
記事では、2009.12 は2兆2907億円とありましたが、グラフを読み取ってみると、乙の目には2兆3375億円に見えました。乙の読み取った数値で 2008.12 と 2009.12 を比べると、ほぼ9%減になっていますから、読み取りの数値がおかしくても、まあ精度や相対的な金額としては十分でしょう。
次に、日経平均株価と TOPIX を調べます。
TOPIX | 1年騰落率 | 日経平均株価 | 1年騰落率 | |
2006.12 | 1681.07 | 17225.83 | ||
2007.12 | 1475.68 | -12.25% | 15307.78 | -11.13% |
2008.12 | 859.24 | -41.77% | 8859.56 | -42.12% |
2009.12 | 907.59 | +5.63% | 10546.54 | +19.05% |
三者を比べると、2007.12 と 2008.12 では、TOPIX と日経平均の下落率が ETF の資産残高の下落率よりも大きく、つまり、ETF に資金が流入していたことがわかります。2009.12 では、TOPIX と日経平均がともにプラスになっているのに対して、ETF の残高はマイナスであり、資金が流出していることを物語っています。
記事では、2009年末に日本の ETF の残高が 9% 減だったとしていますが、そうではなくて、もっと大きな資金流出があったのだけれど、株価が上がったおかげで 9% 減で済んだように見えたということです。
記事中のグラフを見ると、2006.12 をピークにして、資金が流出しているように見えますが、それは見かけだけで、実際は、2008.12 まで資金は流入していたのです。しかし、株式市場全体が振るわなかったので、ETF の純資産残高もそれに準じて下がってしまったということです。
日経新聞の記事のグラフの示し方は、ミスリーディングではないでしょうか。記事中の「3年連続して減少した」は正しいですが、資金流出が3年続いたと読んでしまってはいけません。しかし、このグラフの示し方は、あたかも資金流出が3年間続いているように見えます。
経済を中心とした新聞社が、こんなグラフと記事を書いているのですね。
乙は驚きました。