2010年03月17日

池田信夫(2009.10)『希望を捨てる勇気』ダイヤモンド社

 乙が読んだ本です。「停滞と成長の経済学」という副題が付いています。
 池田氏のブログ
http://ikedanobuo.livedoor.biz/
にも書かれているように、経済学の立場から日本社会を見るという点で、池田信夫氏の主張ははっきりしています。
 本書を読みながら、ブログの記述との重なりを感じてしまいました。まあ著者が同一であればそんなものでしょう。
 ブログとは無関係に、本書を単独で読んだ場合、合理的な考え方が随所に見られ、日本が抱えている問題がすっきりと理解できるのではないでしょうか。
 以下、乙がおもしろいと思ったところをいくつか取り出しつつコメントしたいと思います。
 pp.16-18 ちょっと前に問題になった派遣切りは、司法からの要請だとしています。これだけ聞くと「えっ?」と感じるかもしれません。しかし、今のように正社員が保護されている(これも司法の判断)ということの裏返しで、社員のクビを切るときは非正規社員から切るのが当然ということになります。そのものズバリで書いてあると、かえって気持ちよく感じます。
 p.67 日本で、雇用調整を行うメカニズムが、解雇(50年代)、配置転換(60年代)、出向(70年代)、非正社員(90年代)と変化してきたと述べています。なるほど、乙のようにある程度の歳になってきた人間から見ると「昔はそうだったよなあ」と感じます。それが明示されています。
 p.182 トヨタはなぜ危機なのかを示しています。日本を象徴する「すり合わせ」で成立したのが自動車産業なのですが、今直面している事態は、自動車の価格が大幅に下がっていることであり、どちらかというと高級車を指向しているトヨタでは、新興国市場を開拓できないということだと説きます。
 p.191 昨年秋に「事業仕分け」で話題になったスーパーコンピュータについて、戦艦大和と同じく大艦巨砲主義で、時代遅れであり、スパコンの名を借りた公共事業だとしています。
 p.197 政策立案を官僚が独占し、御用学者がその下請けをやっているようでは、日本の政治はいつまでも進歩しないとしています。世界市場で相手にされない日本の各業界を見ていると、まさに的を射た発言です。
 ほんのいくつかの例を示しましたが、本書で述べていることは、これらにとどまりません。もののあり方を考え、日本のこれからを構想するときに、本書の記述は貴重な視点を提供してくれると思います。
 池田氏のような人が政治家になったらどうなのでしょうか。その明解な主張も、回りの魑魅魍魎に絡め取られてしまうのでしょうか。
 本書のタイトル「希望を捨てる勇気」は、ちょっとミスリーディングです。「今持っている希望を、勇気を持って捨てなければならない」というように読めます。内容を正確に反映するタイトルにするなら、むしろ、副題をそのまま使うほうがいいように思いました。

ラベル:池田信夫
posted by 乙 at 05:11| Comment(3) | TrackBack(1) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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