一読して、驚きました。大変おもしろい本です。日本の農業のこれからを真剣に考えた書です。データも豊富で、グラフや数表などがちりばめられ、それに基づいた議論が展開されます。
全体の主張は、「日本の農業は弱体化しているわけではない。」ということです。あたかも日本の農業は先行き真っ暗であるかのような見方が支配的ですが、これは農水省の見せかけ作戦にすぎないというわけです。
第1章「農業大国日本の真実」は、タイトルに一番近いところです。食料自給率などという、日本以外では使われてもいない指標で日本の農業が不十分なままだと見せかける日本の政策を批判しています。
まったく同感です。食料自給率なんて無意味です。そんなことをいうなら、食料以上にエネルギー自給率をどうするのか、考えておいたほうがいいです。石油なんて、日本の首根っこが完全に押さえられているわけですから、こういうところをそのままにしておいて、食料自給率だけをどうこうするという考え方自体がおかしいものです。
乙は、むしろ、世界中のあらゆるところから食料を輸入するようにすることが、食糧難に関する一番の安全策であるように考えます。(イギリスがそのような考え方に立脚しているとのことです。)
第2章「国民を不幸にする自給率向上政策」は、第1章の継続で、自給率を上げようとすること自体を批判しています。これまた説得力がある章です。乙が一番おもしろく思ったのは、p.66 で、自給率が低い小麦や大豆を作ることに対して「転作奨励金」が出るわけですが、これがかえって小麦の生産にマイナスになっているというのです。農家としては、小麦や大豆を作るだけで補助金の形で収入になるため、品質の向上には取り組まないというわけです。したがって、国産の小麦は品質が悪く、外国産のほうがはるかによいということになります。7兆円の転作奨励金によって、経営努力を放棄した農家を作り出し、品質のよくない在庫の山を築いただけだということになります。転作奨励金という補助金が農業をダメにしている一例です。
第3章「すべては農水省の利益のために」では、農水省をめぐる闇の一部を赤裸々に描いています。役人の天下り先としてのおかしな団体も登場します。そんなところがボロ儲けをしているわけです。その分、消費者は高いものを買っていて、余計な金を負担しているわけです。第1章から第2章で述べてきた日本の負の側面の主人公がこうして暴かれます。
第4章「こんなに強い日本農業」では、日本の農業が生産性を向上させてがんばっている姿が描かれます。
第5章「こうすればもっと強くなる日本農業」では、農業の改善のために、具体的な政策が提言されます。これまたおもしろい発想です。
第6章「本当の食料安全保障とは何か」では、日本の政治的な問題も含めて、浅川氏の考える食料安全保障の姿が描かれます。
第6章まで読み進めてくると、著者の浅川氏が農業を中心としつつも広い視野を有していることがわかります。その視野を基準に第1章以下を書いてこられたわけです。具体論から始まって、だんだんズームアウトして世の中の農業関連を広く見渡していくという書き方は大いに成功していると思います。
多くの方におすすめしたい良書だと思います。