2010年09月01日

鈴木亘(2010.7)『社会保障の「不都合な真実」』日本経済新聞出版社

 乙が読んだ本です。「子育て・医療・年金を経済学で考える」という副題が付いています。
 鈴木亘氏といえば、「保育園問題をミネラルウォータにたとえると」
2010.8.28 http://otsu.seesaa.net/article/160795171.html
と同じ筆者です。期待できます。
 本書は、一読して、大変おもしろく思いました。
 1章のタイトルは、本のタイトルと同じです。本のタイトルをここから取ったということでしょう。
 日本の人口減少・少子高齢化という現状では、今まで通用していたビジネスモデルが通用しないわけですが、日本は、それまでの成功体験の故に、ビジネスモデルを変えることはきわめてむずかしいとしています。納得しながら読み進めることができました。
 2章「子ども手当は子どものためか」では、子ども手当の問題点を論じています。また、保育園の待機児問題を取り上げ(ミネラルウォータにはたとえていませんが)、両者を一括して解決する方策として、「子ども手当のバウチャー化」を提案しています。
 乙は、個人的には、p.54 以降で論じられる「病児・病後児保育は保険制度で」という提案が大変おもしろかったです。この問題は、保育園を利用しつつ働いている人にとっては実に大きな問題です。乙の場合も、子どもが小さかったころは、妻と仕事の調整をしながら、どちらかが休んだりして、がんばってきました。休みの日であるにもかかわらず、どうしても仕事の一部をしなければならなかったときは、子どもを勤務先に連れて行ったこともありました。短時間で済む仕事だったので、周りに甘えたかっこうです。そのような経験を通して、子どもを保育園に入れたとしても、子どもが病気をすると、とたんに大変になる現実を実体験として知りました。
 鈴木氏によれば、それが保険でカバーできるというのです。病気をしなくても、保険料を払い続けなければなりませんが、いざというときのことを考えれば、実際そういう保険があったら、保険料がかなり高くても、加入する人は多いでしょう。
 3章「社会保障は貧困を減らせるか」では、貧困対策と貧困ビジネスの問題を論じています。無料低額宿泊所に対しても、民主党のいうように直接規制では問題は解決せず、(むしろ問題を悪化させ)貧困者をさらにまどわせることになるとのことです。
 4章「年金は本当に大丈夫なのか」は、乙にとっても関心が高い年金の問題を扱っています。旧自公政権の「百年安心」年金は、全然安心できないこと、国民はその実態を理解していないことを解説しています。そして積立方式を提案しています。
 5章「介護難民はなくせるか」では、無届施設に押し寄せる「介護難民」の問題を論じています。介護労働力不足が一番の問題だと思いますが、低賃金労働では、改善はむずかしいでしょう。鈴木氏は、サービス価格の自由化と「混合介護」の導入を説いています。経済学から考えると、なるほどと思わせます。
 6章「医療を誰が支えるか」では、医師不足問題と後期高齢者医療制度の問題を取り上げています。ここでも積立方式が提案されています。
 7章「財政破綻は避けられるか」では、日本の社会保障費の膨張の問題を取り上げます。このままでいくと 2010 年代には財政危機となると予測しています。どうにも大変なことになりそうです。
 それぞれの章は違った話題を取り上げていますが、著者の鈴木氏は豊富なデータを基に、きちんとした一貫性を持って各問題を扱っています。読んでいて実に気持ちがよかったです。こういう人が政府の中心部に入り、首相に各種提言をするようなことにでもなれば、日本は大きく変われるのになあと思いました。
 現実の政治は、いろいろなドロドロがあるのでしょうが、それにしてもわかりにくいものになっています。政権交代して1年経ちましたが、日本の政治は変わっていないと思います。民主党政権になれば、政治がもっとドラスティックに変わるのかと思っていましたが、全然そんなことはありません。
 こういう本を読んで、溜飲を下げる思いです。
 日本の現状を憂える人に、日本に未来を考える人におすすめの1冊です。

参考記事:http://agora-web.jp/archives/1053712.html


ラベル:鈴木亘 社会保障
posted by 乙 at 05:24| Comment(0) | TrackBack(1) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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