2010年10月16日

日銀が円で海外資産を購入すると

 乙がふと見かけた日経新聞の記事ですが、10月14日朝刊27面「経済教室」で、慶應義塾大学の櫻川昌哉氏が「海外資産の購入 検討を」という記事を書いていました。
http://nikkei-article.seesaa.net/archives/20101014-1.html
で一部が読めます。
 その記事の中で、目新しい提言がありました。
 日銀がゼロ金利政策をしている限り、5兆円程度の資産(REIT や ETF)の買い取りをしても、あまり意味がないというのです。ゼロ金利になってしまうと貨幣の需要行動を予測することはできないとのことです。インフレ率1%を目指すこともゼロ金利下では無理だというわけです。
 そこで、円高になっている現在、割安の海外資産を購入してはどうかというアイディアです。
 100兆円規模で円建てで買うということです。
 櫻川氏は三つのメリットを上げていました。第1に、世界経済が不況なので、海外から歓迎される。第2に、海外への円のバラマキによって円高に歯止めがかかる。第3に、円建てで決済することで、円が国際通貨になる。
 スケールの大きい話でした。
 もっとも、こんなことを日本の中央銀行が行っていいのか(中央銀行は何をするところか)という問題がありそうに思いますが、それはおいておきましょう。非常時には何でもありだと考えることにしましょう。すると、100兆円の海外資産購入は、きわめて大きな影響を各国に与えることになります。
 ところで、日本がこれを行えるとすると、世界各国も理論上は同様のことを行えることになります。しかし、実際に100兆円(に相当する資金)が用意できる国となると、日本以外ではあまり見つかりそうにありません。ユーロ圏はギリシャ問題に端を発して、各国の国債の不安が増しています。アメリカは、ドル安・円高を望んでいるわけですから、こんなことはしません。中国は、人民元が国際化していないから、こんなことはできません。カナダやオーストラリアなどでは、お金が余っているわけではないので、こんなことはできません。他の国では、経済規模が小さいので、無理です。
 日本はできます。日本だけができます。たっぷりと経常収支の黒字をため込んだ日本ならではの政策です。
 乙は、大変おもしろいと思いました。
 さて、しかし、具体的にこんなことを実施しようとすると、むずかしい問題にぶつかりそうです。海外資産として、具体的に何を買うのかという問題です。しかも円建てで100兆円です。外国が円建てで何を売ってくれるでしょうか。こんな金額になると、小国ならば国のすべてになってしまうでしょう。(それはそれですごい話ですが。)そうすると、日本が買えるものは先進国の資産のごく一部にとどまらざるを得ません。
 100兆円の資金で買えるものとなると、先進国の株や債券くらいしかなさそうです。それにしても、これらが本当に「円」で買えるのでしょうか。誰が円で売ってくれるのでしょうか。100兆円も売ってくれるものなのでしょうか。
 何だか、考えてみると、無理そうな気がしてきました。
 櫻川氏には、もう少し具体的に書いてもらいたかったように思います。アイディアとしてはおもしろいだけに、実行の可否を考えてみたいところです。
posted by 乙 at 05:30| Comment(10) | TrackBack(0) | 投資関連の話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする