2010年11月08日

藤巻健史(2010.8)『日本破綻』朝日新聞出版

 乙が読んだ本です。「「その日」に備える資産防衛術」という副題が付いています。
 藤巻健史(2010.3)『日本破綻』講談社
2010.6.22 http://otsu.seesaa.net/article/154037696.html
の続編という位置づけです。
 第1章「欧州の財政危機を読む」ではギリシャ危機を取り上げて論じます。
 乙がおもしろく思ったのは、p.14 に出てくる話です。日本国債はその95%を日本国民が持っているわけです。すると、日本国債がデフォルトしても他国では直接的な被害を受けません。したがって、日本国債のデフォルトについては他国は騒がないという論理です。なるほどと思いました。
 p.20 では、ギリシャ危機の本質について、固定相場制の問題だと喝破しています。以前だと、ヨーロッパ各国が独自の通貨を持っていたので、それぞれの国の間で為替相場が変動し、さまざまな偏りを自動的に修正するようなことが可能だったのに対し、今はユーロという単一通貨を使用していますから、そういうことができません。これが固定相場制と同じ問題なのだというわけです。まさに、この見方でギリシャ危機が理解できます。
 第2章「日本の財政危機を直視する」では、日本の財政危機が、もうどうしようもない状態になっているということを説明します。
 第3章「楽観論に対する反論」では、国の借金が増えてもまだ大丈夫だという議論に反論しています。
 第4章「なぜこのような状況に陥ってしまったのか?」はたった5ページですが、結論としては、日本が計画経済国家で市場原理が働いていなかったからだとしています。
 第5章「解決方法はあるか」では、とてもありえない話からあり得る話まで、さまざまな「解決方法」が述べられます。藤巻氏はハイパーインフレがもっとも可能性が高い解決方法だとしています。乙も、ハイパーインフレ説を考えています。
2009.5.3 http://otsu.seesaa.net/article/118371423.html
 第6章「「市場の反乱」のシナリオ」では、どんなふうに国債の暴落が始まるかをいくつかのシナリオで解説します。それぞれ可能性があるように思います。
 第7章「「その日」は国債未達に始まる」では、具体的に、国債の暴落が始まる最初の事件として「国債未達」(発行する国債の一部が売れ残ること)を取り上げています。乙がおもしろいと思ったのは、p.110 です。国債の入札の時の応札倍率が1倍未満になれば、もちろん危ないわけですが、3倍程度あったとしても安心していてはいけないという話です。ここは藤巻氏のトレーダーとしての経験が活きています。応札する側が、高めの入札価格で多めに入札しているという話です。乙はこんなことがあるなんて知りませんでした。
 一番の問題は「その日」がいつかということですが、これは誰にもわかりません。
 第8章「「その日」に備える資産運用の原則」では、保険のつもりで、国に頼らず、リスクを認識し、長期を見据えましょうと説いています。
 第9章は「これで完璧! 預金封鎖対策」ということです。「預金封鎖」は憲法違反なので起こらないだろうという話ですが、もしも、それに対して対策を立てるとすると、コストが高くなるということです。
 p.125 から、海外の銀行・証券会社での口座開設について述べられますが、コストが高いということでよくないとされています。ある意味ではそうかもしれません。藤巻氏が指摘するのは、税金の問題で、日本国内なら20%の源泉分離で済むのに対して、海外だと総合課税になるから、所得の高い人だと50%が税金として取られてしまうとしています。それはそうなのですが、乙は、サラリーマンなので、定年があります。その後は年金生活になります。そのときに運用していた資産を取り崩すつもりです。そうなると、収入はかなり少なくなるので、税金もそんなにかからないのではないかと思います。
 第10章「ハイパーインフレに備える――基礎・中級編」第11章「どの国、通貨、金融商品に投資するか」第12章「ハイパーインフレに備える――上級編」などは、具体的な投資話ですので、ぜひ本書をお読みください。
 p.162 では、米国株のありかについて説明しています。米国株を買うと、その株券が日本に送られてくるのでなく、ニューヨークにあるカストディアン口座(信託口座)に日本の仲介証券会社名で登録されるとのことです。
 乙がよくわからなかった点
2010.10.26 http://otsu.seesaa.net/article/167198285.html
でしたが、一応、わかってきました。
 なお、p.181 から出てくる「キャップ」については、乙は今まで知りませんでした。これから少しは勉強してみてもいいのかもしれません。
 第13章「未来は暗いわけではない」は最後の結論部分です。株・債券・円のトリプル安が日本を襲うことになっても、それは「不幸中の幸い」だとしています。韓国のような前例があるからです。
 一時的に日本経済は極端なダメージを受けるでしょう。しかし、その後は経済が大復活するだろうというわけです。

 全体として、「日本破綻」ですから、他の多くの破綻本と同じようなものと見られるかもしれませんが、乙はかなりの信頼性を感じました。おもしろい本でした。
 日本は、ハイパーインフレになるかもしれないけれど、ならないかもしれないわけで、どちらでも大丈夫なように資産運用を考える必要がありそうです。ということは、結局、海外分散投資しかないように思います。


posted by 乙 at 04:31| Comment(12) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする