2010年12月27日

大前研一(2010.7)『民の見えざる手』小学館

 乙が読んだ本です。「デフレ不況時代の新・国富論」という副題が付いています。
 本書は「週刊ポスト」での連載の「ビジネス新大陸の歩き方」などを編集したものです。例によって大前氏の歯切れのよい口調が楽しめます。日本の何が問題なのか、ズバリ指摘しています。
 本書の主張は p.27 l.-1 から p.28 に出てきます。
最も有効な経済対策とは、金利でもマネーサプライでもなく、世の中にあまたあるお金が日本国内で活躍するような政策であり、そうした巨大マネーを日本に引き込むための「無から有を生む」仕掛けである。

 これをどうやって実現するのかは、あとの方に出てきます。
 実に夢のある話です。こういうことで1冊の本ができあがっているのですから、おもしろいはずです。
 pp.64-67 で、日本の標準家庭は「単身世帯」であるとし、だから p.68 でいうように、総合スーパー(4人家族くらいをイメージしたパッケージで売っている)が不振なのだとしています。この見方で、最近の小売りの傾向をずばり表現してしまいました。なるほど、こういう把握の仕方で世間を見る目が変わってきます。
 p.76 ブランド品は安売りをしたらおしまいだということで、安売りをしないブランド品の例が挙がっています。そう、最近の小売業は、ブランド品とそうでないものの区別ができていないかのようです。
 pp.125-130 では、ロシア・ビジネスの重要性が語られます。北方領土の問題などは、適当に済ませて、むしろビジネスの展開を図るべきだということです。特に、核弾頭の再利用でエネルギー 100 年分とか、核燃料再処理工場をシベリアに設置など、ユニークなアイディアが満載です。
 p.159 あたりでは、国民のグッドライフを実現するためには、都市の住民を対象にした各種政策を実施するべきだとしています。今や、都市の住民の方が多数派なのですから、非都市よりも都市のほうを向いた政策が必要なのです。ただし、大前氏は、このとき、増税も、税金財源も、外国頼みも全部ダメだといいます。それでは、都市の再生はできないというわけです。ではどうするか。pp.163-169 に雄大な構想が書いてありますので、ぜひご覧ください。市街化調整区域、湾岸再開発、容積率緩和ですが、ここでは詳細を省略します。乙はとてもおもしろいと思いました。
 こういうビジョンのある人が総理大臣になってくれれば、日本も少しは変わるのでしょうが、国会議員が首相を選ぶ(そして国民が国会議員を選ぶ)以上、そんなことにはならないでしょう。民主主義社会では、衆愚政治になりやすいといわれますが、今の日本などは、まさにその典型のようです。
 pp.186-187 では、文科省による大卒者の「就職支援」をこき下ろしています。p.193 によれば、アメリカの大学のビジネススクールでは、就職内定率や就職率を気にしないそうです。大企業に就職しないからです。大半は自分で起業するか、おもしろそうなベンチャー企業に行くとのことです。日本との大きな違いに驚きます。
 しかし、そうはいいつつ、p.197 では、韓国の就職のむずかしさを述べ、安定した生活が保障される就職先(政府、サムスン、現代、LG、ボスコなど)と他の会社に就職した場合で、生涯収入が月とスッポンほど違うと述べています。韓国の学生にも起業を勧めるわけではないのですね。ここは主張が一貫していないように思いました。日本だって、大企業に行けばかなりの確率で一生涯安定した生活ができそうです。だからみんな大企業に行こうとしているのではないでしょうか。
 ともあれ、1冊読むのが楽しくてしかたがない感じでした。ま、このような話は実現しないのが現実なんですけれど、……。


ラベル:大前研一
posted by 乙 at 04:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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