文字通り、働かないことで自由時間を確保し、豊かな生活を楽しもうという本です。
「自由な時間」を多く持っている人こそが、ほんとうの「豊かな人」だという考え方が述べられています。
しかし、乙は一読して失望しました。
「働かない」理念は興味深いものがあります。しかし、では、具体的にどのような生活をするのか、収入はどうするのか、その具体策がまったく書いてありませんでした。
著者はどうしているのでしょうか。巻末にこう明記してあります。「アーニーは一日4,5時間、週4日働き、英語で“r”がつかない月、つまり5月、6月、7月、8月には仕事をしないことにしている。」
これでわかります。つまり、まったく働かないのではなくて、少なく働いて自由時間をたくさん確保しているのです。それならそうと、この暮らし方を早めに提示するべきでしょう。
普通に誤解するのは、「働かないこと」がすばらしいなら、「全然働かないこと」がベストということになるということです。しかし、その場合、収入の道がないわけで、日々の生活はどうするのかという問題が起こります。
収入については、いろいろな考え方がありますが、ある程度の財産があれば、あとはまったく働かない(つまりは早期リタイヤ)という選択肢もあります。日本円で考えれば、たとえば5億円あれば、毎年1%で運用したとしても、500 万円の収入があることになりますから、それで財産を減らすことなくずっと暮らしていけます。また、2億円あれば、まったく運用しなくても、毎年 500 万円ずつ取り崩して40年暮らしていけます。
もっとも、そういうお金を得るためにがむしゃらに働くことは著者の主張に反することになります。したがって、これが達成できる人は、親からそういう財産を相続した人くらいかもしれません。
そうでなければ、少しは働いて、収入を得る必要があります。著者のスタンスがわからなかったので、本書を読みながら不満が募りました。第11章「優雅な生活に大金はいらない」にしても、具体的なお金の話はまったく出てきません。
ところで、短時間だけ働くというスタイルですが、著者が住むカナダではこういう働き方ができそうに思います。しかし、日本ではどうでしょうか。短時間の仕事では十分な収入が得られるようにはなっていない(そういう仕事はない)のが現実ではないでしょうか。一日5時間週4日働くというのは、週20時間ということです。そういう仕事といえば、まずアルバイト程度しかないのではありませんか。とすると、時給 1000 円の世界です。週2万円、月8万円、1年に8ヵ月働いて64万円の収入です。これでは豊かに生活するにはとても足りません。逆に、時給 4000 円の仕事をするならば、年収 256 万円となり、まあ何とか暮らしていけそうです。しかし、時給 4000 円の仕事といえば、それなりの専門職ということになり、そういう人が毎年4ヵ月の休暇を取るというスタイルを貫けるでしょうか。乙は大いに疑問に思います。
この本は、著者の考え方を書いた本であり、具体的な生活の話はまったく出てきませんので、こんなことで 300 ページもかける必要はないと思います。100 ページ、あるいは 10 ページに圧縮して書いても趣旨が伝わります。
もっとも、定年退職した後の生活のことを考えるためには、こういう本も適している面があります。