乙が読んだ本です。「資産を安定的に殖やしたい人のための」という副題が付いています。
本書には、HSBC 香港の使い方が書かれています。しかし、こういう本を読んで大いにもうけようと考えたりすると、痛い目に合いそうです。
乙が読んで気になったところをいくつかメモしておきます。
pp.36-37 「年利 15% の定期預金?」というところがあります。「?」が付いているので、その分だけ良心的でしょう。これはデポジットプラスというもので、実態はデュアルカレンシー・デポジットという仕組み債の一種です。単純に年利 15% がつくものではありません。普通の投資家は、こんなものに投資してはいけません。とんでもなくハイリスクです。これを勧めるかのように書いている時点で、本書には疑いを持ってしまいます。
p.44 l.-2 投資ファンドについて説明しているところで「HSBC のグローバル投資の専門家たちによって、世界中の有名なファンドハウスの中から厳選した質の高いファンドをリストアップされています。」とあります。「を」は「が」のミスですが、それはさておき、「質の高いファンド」とは何でしょうか。そんなものがあるでしょうか。HSBC を使わずに、日本から投資できないのでしょうか。疑問が膨らみました。
p.47 では「頻繁に組み換えを行う人に便利な FundMax(ファンドマックス)」の説明があります。あれこれファンドを乗り換える人向けのサービスで、ファンドを乗り換えても購入時の手数料がかからないというものです。一見よさそうにも思いますが、問題は FundMax の手数料です。投資金額にもよりますが、年利 1.00-1.75% がかかります。この手数料が「高い!」と思います。こんな手数料を払わず、購入したファンドを乗り換えずにずっと保有しているほうがよっぽど安上がりです。
pp.58-62 ETF・インデックス投資が説明されます。香港の ETF の紹介記事のようになっています。最後の p.62 では、「個々の ETF の内容を詳しく知るためには、楽天証券のサイトが便利です。」ということで、楽天証券の URL が書いてあります。だったら、楽天証券で ETF 投資をすればいいのではないでしょうか。HSBC 香港のサイトを使わないということは、その分、HSBC 香港のサイトが不便だと言っていることになります。HSBC 香港と楽天証券を(手数料も含めて)あれこれ比べてあればより有意義になったのに、……と思いました。
pp.101-104 では、HSBC 香港の口座への送金方法について説明しています。日本の銀行からの海外送金(手数料 6000 円程度)、Go Lloyds を利用した海外送金(手数料 2000 円+送金額の 0.1%(最低 1500 円))が説明されていますが、いずれも手数料がかなり高いと思います。p.103 からほんの数行で FX-CFD 口座やアフィリエイトサイトからの HSBC 香港の口座への出金について書いていますが、手数料についてまったく触れられておらず、どのサイトで何をすればいいのかもまったくわかりません。
というわけで、HSBC 香港への送金については、ほとんど何も説明していないに等しいと思います。著者本人がどのくらい経験があるのか、疑問に思いました。
p.136 から Deposit Plus の説明がありますが、Deposit Plus が何であるのか、一切説明がありません。pp.36-37 に簡単な説明があるのですが、だったら、p.136 に「p.36 を見よ」と書いておくべきです。今の記述では、何が何だかわかりません。
本書を読んで、乙が知らなかったことが一つだけありました。p.129 ですが、乙は、送金限度額を変更設定するとき、ネット上のフォームをプリントしてサインして郵便で送っていました。実はメールに添付して送るのでいいのだそうです。サインが必要ですから、たぶん、サインしたものをスキャナで取り込んで送るのでしょうが、このやり方は知りませんでした。
本書は、HSBC 香港の使い方マニュアルのような内容でした。まあそういうねらいの本があってもいいでしょう。しかし、乙は大いに不満を感じました。
第1に、HSBC 香港の提供する個々の金融商品の説明はあるけれども、日本の証券会社や銀行で提供されるものと比べてどっちがどれくらい有利なのか、何も書かれていないということです。たとえば、投資ファンドです。HSBC 香港で購入すると、初期手数料として、5.00-5.25% がかかります。(本書では、p.49 の中国株ファンドのところに記載があります。)乙の感覚では、数年前はそんなものかと思っていましたが、現在は、とんでもなく高いと感じるようになりました。日本だったら、ノーロードとか、せいぜい 3% くらいではないでしょうか。日本ではどうなのかも書かないと、HSBC 香港が有利かどうか、わからないのではないかと思います。
第2に、HSBC 香港のデメリットについてまったく書かれていないことです。本書自体が HSBC 香港を使うことをすすめるスタイルで書かれているわけですから、デメリットについては書かないことにしたのかもしれませんが、しかし、それでは客観的な記述になりません。一例だけ挙げると、HSBC 香港の口座で中国株に投資している場合、配当金が出て、自分の口座に振り込まれると 30HKD が入金手数料としてかかります。大した金額ではないという見方もあるかもしれませんが、けっこうな負担です。たとえば、分散投資を心がけて、いろいろなジャンルの中国株20〜30種類くらいに資金を分散させて投資することは一つの投資法だと思いますが、個々の銘柄で配当金が出た場合、それぞれから 30HKD が引かれるので、少額の投資では割に合いません。こんな説明は本書中のどこにも出てきません。pp.38-43 で中国株投資を勧めるならば、まずこの情報を明示するべきだと思います。
というようなことで、著者の金山氏が自分自身で HSBC 香港を利用して投資しているのかどうか、あやしいものだと感じました。本書の記述は HSBC 香港のサイト内を(英語で)ネットサーフィンすればわかるようなことばかりです。読む価値はあまりないものと判断します。
HSBC 香港を使うメリットは何かということは重要ですが、第1章「なぜ、HSBC 香港なのか」(特に pp.22-29「海外に口座を開設するメリット」)に書かれていることを読んでも納得できませんでした。
乙は、HSBC 香港に口座を開設していますが、では、この口座を畳んで撤退するか。いいえ、そうはしません。ということは、本書に書かれていないメリットがある(と考えている)からなのですが、本書の読者が知りたいのは、まさにそういうことなのでしょう。しかし、それは本に書けないということでしょう。(乙のブログでも書けません。)となると、こういう本を読んでもあまり意味はないことになります。
大まかにいえば、HSBC 香港のサイトで、英語でわかるようなことを、日本語に直したくらいのことでしょうか。