2011年11月12日

笹子善充(2010.11)『はじめての海外ファンド投資マニュアル』実業之日本社

 乙が読んだ本です。
 タイトルに「はじめての〜」とあるので、海外投資の入門書かと思って読んでみました。しかし、どうもそうではなさそうです。
 目次は以下の通りです。
  CHAPTER 1 あなたはそれでも日本で資産を運用しますか
  CHAPTER 2 日本に一番近い国際金融センター 香港
  CHAPTER 3 海外に銀行口座を開設しよう
  CHAPTER 4 これだけは知っておきたい! 海外ファンド活用マニュアル
  CHAPTER 5 投資の現場最前線 突撃! 海外投資体験談
  CHAPTER 6 究極のキャピタルフライト 香港移住のススメ
 著者は香港在住で、各種投資コンサルタントであり、自らも投資を実践している人だそうです。
 読んだ後で、この本は、どんな人が読者対象として想定されているのか、わからなくなってしまいました。
 たとえば、p.186 以降には、香港と日本の税金の比較が載っています。所得税は日本が最大40%に対して、香港は15%。住民税は日本が10%に対して、香港はゼロ。相続税は日本で最高50%、香港はゼロ。贈与税も同じ。というわけで、日本を脱出する人が後を絶たないということです。
 それはそうですが、しかし、所得税が40%の人というのは、課税標準額が1800万円以上の人で、はっきりいえば富裕層、つまり金持ちです。相続税が50%というのも、課税標準(基礎控除後の金額)が3億円を越える人で、これまた金持ちです。金持ちは、カネを生み出す仕組みを持っています。単なる会社勤めのサラリーマンでは、なかなか金持ちにはなれません。もしも、会社の経営者だとすると、そのような所得を生み出す源泉が日本にあることになり、香港に移住することはそのような源泉から離れることになり、簡単にできることではありません。
 本書は、そのような(日本の税金が高いと思うような)金持ちを読者対象にしているようですが、そういう人は、すでに投資などをはじめているでしょうから、本書に出てくる解説が必要なのかどうなのか、大いに疑問に思います。
 本書中の記述で気になった点をいくつか書いておきます。
 p.002 香港の銀行で日本円を米ドルに両替すれば手数料が安いとのことです。日本の銀行に比べれば、確かに香港の銀行の方が安いのですが、それでも、両替手数料は「安い」といえるレベルではありません。こんなことで円安をねらおうなどと思っても、ダメです。銀行に裸にされてしまいます。もっと安く両替できるようでなければいけません。
 p.054 タックスヘイブンについて、直訳すると「税金天国」だとしています。著者は heaven(天国)と haven(避難所、避難地)を誤解しているようです。こういうミスをしている人がタックスヘイブンの利用を勧めていても、それは信じられないというレベルです。
 p.088 海外の銀行に最初に口座を開設する際には、現金を100万円ほど口座に入金しておくといいとあります。ここから海外ファンドなどを買うためです。しかし、このようにすると、実際に海外ファンドを買う際に、外貨に両替しなければなりません。金額にもよりますが、100万円程度(あるいはそれ以上)の資金では、両替手数料が海外送金手数料よりも高くなります。つまり、送金手数料を節約するために、こういうやり方をしても、トータルではあまり節約になっていないということです。
 p.090 海外送金について、日本の通常の銀行からの送金では1回につき最低1万円近くかかるとしています。著者は、香港在住ということで、日本の銀行からの海外送金の経験があまりないか、ずっと以前の経験しかないのではないかと思います。実際上、手数料 5000 円程度で送金できます。
 p.160 金(gold)投資を行う場合は、(日本で行う)円建ての取引よりも(海外で行う)米ドル建ての方が効率がよいとしています。昨今は、円高が進んでいるため、国内金価格はあまり上昇していないという話です。これは著者のまったくの勘違いでしょう。円で投資しても、米ドルで投資しても、金は金です。米ドル建てで一見金の上昇率が高いように見えても、円高で円建て価格が上昇していないように見えても、両者は同じことです。
 p.168 「人民元ETFで大きなリターンを狙え」ということで、p.169 では人民元の米ドルに対するレートの上昇のカーブがグラフで示されています。米ドル建てで人民元ETFを購入すると、大きなリターンが期待できるとしています。しかし、グラフをよく見ると、2005 年から 2010 年までで 25% ほどの上昇にすぎません。この期間の円高は、1ドル 120 円が1ドル 80 円くらいになっており、3割以上の上昇になっています。米ドル建てで大きなリターンがあるように見えても、円建てではさほどでもないということになります。いろいろな通貨で投資することを基準に考えると、人民元に投資したからといってリターンが大きいとはいえません。
 p.191 BVI(ブリティッシュ・バージン諸島)にペーパーカンパニーを設立する話が出てきます。確かにペーパーカンパニーは簡単に作れるでしょう。しかし、実際には、ペーパーカンパニーを作ったして、その後が問題です。そのペーパーカンパニーをどう活用するといいのでしょうか。単に法人税が安いというだけで、具体策は何も書いてありません。各自で考えよということでしょうか。何かの事業をする場合は、そういう会社があるといいのはわかりますが、普通のサラリーマンだったら、活用法はあまりなさそうです。いや、乙が知らないだけかもしれませんが。

 本書は、全体として、あまりおすすめではありません。海外ファンドに投資すること自体の問題もありますし、本書ですすめる具体的投資先は、イマイチのように思います。そして、上記のように、著者の考え違いがあちこちに散見され、この人にコンサルタントを依頼していいのだろうかと疑問に思えます。




posted by 乙 at 09:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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