2008年06月26日

西野武彦(2007.12)『貯める、殖やす、守るためのゼロからわかる投資信託』PHP研究所

 乙が読んだ本です。
 投資信託の入門書といった感じです。内容は、まあわかりやすいと思いますが、この本を入門書として他人に勧めようとは思いません。いろいろな問題点があります。

(1)信託報酬の問題
 p.85 「購入した投資信託を保有し続けると、毎年1回は信託報酬という名前の手数料を取られます。」とあります。乙は我が目を疑いました。この記述はミスではありません。p.92 には「信託報酬は毎年1回、基準価額から引き落とされます。」とあるのです。正しくは、信託報酬は毎日少しずつ引き落とされると考えるべきです。こういう誤解をしているということだけで、その人の書いたものは全部がうさんくさく思えてしまいます。

(2)投資のタイミング
 西野氏は、投資のタイミングが大事だといいます。p.22 では、「投資家は景気や株式相場、債券相場、為替相場など全体の流れに注目し、相場が今後どう動くかを予想すればいいだけです。」と述べています。そして、p.23「投資信託ではいつでも自由に売買できる商品が多いため、タイミングの良い売買が可能になります。」といいます。つまり、投資のタイミングがわかるという前提に立っています。タイミングを考えて投資信託を売買するというわけです。
 pp.180-182 でも、タイミングがわかるということが繰り返されていますので、これは西野氏の信念です。
 インデックス投資の考え方からすれば、投資のタイミングは、どんなプロでさえもわからないとされます。乙は、かなりインデックスファンド教の教えを信じていますから、西野氏の主張を疑います。
 ふと気づくと、西野氏は『株の「買い時」「売り時」がわかる本』などという本を書いているんですね。
 西野氏の主張は一貫しているというべきでしょう。

(3)長期投資
 pp.39-40 で、株式投資における長期投資は2〜3年としています。乙は、たった2〜3年が長期だとすることに驚きました。
 pp.183-185 では、株式投資信託を10年、20年も保有し続けることを否定しています。こういう投資は、値上がりがあることもあるが、大暴落にも見舞われ、儲からないし、信託報酬が(1年あたり 1.5% としても)10年で 15% もかかってしまうから、高すぎるというのです。
 このような「長期投資」の考え方は、(2)で述べたタイミングがわかるとする考え方と一致しています。
 つまり、西野氏はアクティブ・ファンドに対する投資をすすめていると解釈できます。
 インデックス投資の考え方からすれば、安い信託報酬の投資信託を10年も20年も保有し続けることがベストだということになります。

(4)騰落の理由
 p.147 では、次のように述べます。「以前に発売された投資信託を購入する場合には、基準価額が値上がりした理由、値下がりした理由をよく調べることも必要です。」基準価額の騰落の理由は、よく調べればわかるのでしょうか。乙は、これはきわめてむずかしいと考えます。もちろん、事後的に、ああだこうだともっともらしく講釈をたれることはできます。しかし、そのようなことを調べて、理由がわかったとしても、今後の投資方針に活かすことはできないのではないでしょうか。

(5)投資先の選択
 p.106 では、外国株に投資するなら、BRICs、特に中国とインドをすすめるとのことです。そしてアメリカ株を否定的に見ています。
 pp.193-194 では、中国株と日本株を有望とし、p.200 では米国株を否定的に見ています。
 主張が一貫しているのはいいのですが、問題は、なぜそのような見方をするのか、その根拠が上げられていないことです。単に、中国(やインド)の高い経済成長が期待されるから、アメリカはバブルだからというだけです。こういう理由だけでは、主張の根拠にはなりません。シーゲルの「成長の罠」
2008.4.7 http://otsu.seesaa.net/article/92505039.html
という考え方(高い成長が期待される国の株式に対する投資が必ずしも好成績になるとは限らない)のほうが、具体的な根拠を示しているという点で、説得力があります。

(6)朝三暮四
 p.133 で、毎月分配型投信を朝三暮四ということわざにぴったりだとしています。このたとえは、乙にはまったく理解できませんでした。
 西野氏は「分配金を先にもらうか、もっと増やして、後でもらうか。」と述べていますので、両者はどちらでも同じことだということで、朝三暮四にあてはまると考えているようですが、分配金を先にもらうほうが不利なことは明らかですから、朝三暮四の例ではありません。
 「学研国語大辞典」の「朝三暮四」の項を見ると、「目の前の差別にばかりこだわって結果が同じになることに気づかないこと。また、ことばたくみに人をだますこと。」とあります。「また、」以降の意味ならば、投信会社が投資家をだましているということで、当てはまるかもしれません。しかし、本文を読む限りでは、こういう考え方は読み取れません。

 ここに挙げたようないくつかの理由から、この本は誤解を招きかねない本だと思います。投資の初心者への入門書とうたっていますが、初心者が読むには適さないと思います。


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posted by 乙 at 05:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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