投資信託についていろいろ書いてある本かと思ったのですが、それは、第1章「そもそも投資信託とは何か?」と第5章「投資信託の賢い選び方」で尽きています。実際に読んでおもしろいのは、第2章「投資信託の4人の主人公」の p.92 以降で、著者の川口氏がファンドマネージャーとしてどんなふうに行動してきたかを書いている部分と、第3章「ファンドマネージャーの実像」です。つまり、この本はファンドマネージャーを描いた本だと見ればそれなりにおもしろい本だと思います。川口氏はファンドマネージャーとしての経験がある人なのですから、その経験談を書いた部分がおもしろいのは当然でしょう。
ファンドマネージャーとしては、当然、アクティブファンドを手がけたいということになります。第3章の記述でもそれがうかがわれます。
一方、第5章では、投資家の年代別に分けた「選ぶべき投資信託」を示していますが、インデックス・ファンドが全部の年代に入っており、投資家からの視点と、ファンドマネージャーからの視点は違うことがよくわかります。
さて、本書で乙がいちばん驚いたのは、p.18 です。ペンタゴンチャートを用いて株価の騰落を予想しているというのです。これは、まさにテクニカル分析そのものです。ファンドマネージャーがテクニカル分析を行っているのです! これは衝撃の事実でした。著者には、別に『ペンタゴンチャート入門』という著書があるので、詳しくはそちらを読まないとわかりませんが、インデックス・ファンドを勧める立場と、テクニカル分析を行う立場は、相容れないものではないでしょうか。自分の中で矛盾は感じないのでしょうか。
また、p.51 の株式投信一覧の図にも驚きました。国内株式型は、アクティブ運用型とパッシブ運用型に区分していますが、海外株式型はインデックス連動型とグローバル型と地域型に区分しているのです。「パッシブ運用型」と「インデックス連動型」は同じものではないでしょうか。なぜ違う命名をするのか、わかりませんでした。また、海外株式型の3区分も、よく考えると変で、グローバル型(いろいろな地域の株に投資するタイプ)と地域型(特定の地域の株に投資するタイプ)の区別は理解できますが、インデックス連動型というのは、グローバル型でも地域型でもあるのであって、同様に、アクティブ運用型でも、その中にグローバル型と地域型があるように思います。つまり、海外株式型をこのような3分類すること自体が変だと思います。
乙がおもしろく思ったことは、第5章の年代別投資方針です。20代〜30代中盤までは、ハイリスク・ハイリターン型で「攻め」の運用を心がけますが、30代中盤〜40代中盤では、ミドルリスク・ミドルリターン型で「効果的な運用」(乙はその中身が理解できませんが)を心がけ、40代中盤〜60代では、ふたたびハイリスク・ハイリターン型で「攻め」の運用を心がけるのだそうです。そんなに変えなくてもよさそうに思いますが、若年層と高年層で同じ考え方を推薦している(ただし、投資するべき比率が両者では違うのですが)ということがおもしろかったです。まあ、その根拠となると、はっきりしませんので、あくまで著者の川口氏の意見というだけのことではあります。
全体として、あまりおすすめできるものではないと感じました。ファンドマネージャーに絞った内容であれば、もっとずっとおもしろいものになったのに、わかりきったような投資信託の解説を含めたために、かえって性格が中途半端なものになってしまったように思います。
具体的な指摘は省略しますが、新書の短い体裁でありながら、けっこう誤字があることにも違和感がありました。
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