著者の太田創氏は、『7戦7勝 10万円から始める南山式 ETF(上場投信)投資術』
2006.7.23 http://otsu.seesaa.net/article/21235708.html
を書いた南山宏治氏と同一人物です。「南山宏治」のほうがペンネームだそうです。
同じ分野の中で、同じ人が違う名前で上梓するのは、なるべく避けてもらいたいところです。名前で著者としての人格が同定されますから、違う名前ということは別人格ということになります。
この本は、ETF に関して幅広く解説する趣旨の本です。
pp.17-18 で ETF の市場規模について言及されています。あんなにたくさんの ETF が上場されているアメリカでも、実は、ミューチュアル・ファンドに比べれば、ETF は相当にマイナーな存在だという指摘があり、乙は驚きました。アメリカでさえ、4.1% を占めるに過ぎません。逆にいえば、95.9% がミューチュアル・ファンドというわけです。しかし、ETF 投資は確実に増えているわけですから、今後はもう少しメジャーなものになっていくと思われます。
pp.102-106 では、ETF を使った短期投資が出てきます。数日間で行うスイングトレード、数週間から数ヶ月のポジショントレードが解説されます。確かに、コストが安いことを考えると、こういう手法も考えられないわけではありません。アメリカでも、もしかしたら、こういう投資手法が盛んなのかもしれません。こういう考え方もあるんだなあといったところでしょう。乙はバイ・アンド・ホールドを中心に考えていますが。
pp.121-124 では、「ETF による国際分散投資ポートフォリオ組成」が説明されています。(1)ハイリスク・ハイリターン・ポートフォリオ、(2)オルタナティブ・ポートフォリオ、(3)分配重視型ポートフォリオの三つです。おや、先進国の ETF を適当な比率で買ってじっと持っておくポートフォリオがまったく説明されていません。pp.80-85 で、先進国の ETF にどんなものがあるかを説明しているから、それで十分だということなんでしょうか。乙はそうではないと思います。ここで先進国型をきちんと説明しておくべきだと思います。
p.125 からは「ヒラメ戦術+ドルコスト平均法」が語られます。普段からドルコスト平均法で順次 ETF を購入しながら、年数回株価が下がることがあるので、そのときは手元資金を投入して多く買う方針だとのことです。まあ、この意義もわからなくはないのですが、この方針が一番トクかといえば、必ずしもそうではありません。インデックス投資の考え方からすれば、この方法では、投資しないで手元に置いておく現金が必要になり、その分、リターンが低くなってしまうと考えます。もちろん、株価が下がるときといっても、どこまで下がるかは誰もわかりませんから、どのタイミングでどれくらいの資金を投入するといいかはまったくわかりません。つまり、太田氏のやり方は理想かもしれないけれど、実際には実行困難だと思います。
乙は、1冊読んできて、太田氏の考え方に違和感を感じました。
本書で解説されている部分も、新しいことはあまりありません。(ETF がマイナーな存在だということは乙にとって新鮮でしたが。)本書は、解説書ですから、広く情報を集めてくればいいのでしょうが、すでに知っていることばかり並べられても、ありがたくはありません。日本で買えない ETF の話もたくさん出てきますが、では、こういうのを一体どうやって買うのでしょうか。もちろん、海外の証券会社に口座を開設すれば買えますが、それはそれで(一部の(多くの?)人には)大変な作業かもしれません。このあたりの記述はまったくありません。
ミスプリも目に付きます。p.13 下から4行目では「最も」が2回繰り返されていますし、p.28 9行目では「のの」という繰り返しがあります。著者も何回か校正しているはずですし、編集者も(日経BP社の校正担当も)見ているはずですが、その結果として、こんなお粗末なミスが残るというのは仕事が雑だということを物語っています。
ということで、本書はおすすめしません。こういう考え方もあるのだということを知れば十分でしょう。
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