2008年08月03日

森木亮(2008.4)『日本国増税倒産』光文社

 乙が読んだ本です。「格差是正が招くデッド・エンド」という副題が付いています。
 森木氏の著書は、何冊か読んだことがあります。だいたい論調が似ています。
森木亮(2007.12)『日本はすでに死んでいる』ダイヤモンド社
 2008.2.21 http://otsu.seesaa.net/article/85113371.html
森木亮(2006.2)『日本国破産への最終警告』PHP研究所
 2008.1.25 http://otsu.seesaa.net/article/80486553.html
森木亮(2007.3)『2011年 金利敗戦』光文社
 2007.6.5 http://otsu.seesaa.net/article/43904848.html
森木亮(2007.2)『ある財政史家の告白「日本は破産する」』ビジネス社
 2007.2.27 http://otsu.seesaa.net/article/34777467.html
森木亮(2005.2)『2008年 IMF 占領』光文社
 2006.4.16 http://otsu.seesaa.net/article/16624855.html

 「はじめに」の p.8 には、とても興味深いことが書かれています。今まで消費税を含めた増税論に対して、著者は国家財政の破綻を防ぐという観点からやむをえないと考えてきたのに対し、本書では「消費税の増税をするな」という主張になってしまったことです。
 著者の考え方が変わることはありうることですし、それが悪いわけではありません。しかし、p.8 によると、著者の考え方が変わったのは、光文社編集部と十分な討議をしたためだとのことです。著者は「ペーパーバックス編集部というのは、このように、見識を持って著者と本をつくりあげるという点で、日本で類を見ない編集部である。」と述べていますが、本というのは、もともと著者の考え方が先にあって、編集部はそれをいかにしてうまく引き出すかが仕事なのではないでしょうか。著者の考え方を変えてまで編集部の意見が反映された本を出すのが「見識」でしょうか。乙は、大きな疑問を感じます。
 序章「増税倒産とは」では、本書の内容を手短にまとめたようなものになっています。日本は、現在でもすでに実態は破産しているのだから、一刻も早く「破産宣言」するべきだというわけです。乙も、この議論はわからないではありません。しかし、国家が破産する手続きはどこにも書いてないわけで、法律もありません。国家は破産しないことが前提になっています。とすれば、誰が破産宣言できるでしょうか。福田総理が破産宣言できるでしょうか。できるわけはありません。法律に書いてないことを勝手に行うことなど、誰もできません。今の日本が破産状態だというなら、その原因は何か、今までの政府や官僚は何をやってきたのかという責任問題になります。過去の日本を(そして自民党政権を)否定するようなことができるはずがありません。日本は延命策をとるしかないのです。
 第1章「重税国家ニッポン」では、日本の税制を論じ、日本が世界的に見て重税国であることを述べます。今の日本株の1人負けの真因は税制無策にあったというわけです。グローバル経済を基準に見て、日本の税制がおかしいところを指摘していますが、もっともな議論です。さらに所得税が高くなれば、お金持ちが逃げていく(p.43)と述べていますが、それはそうでしょう。法人税が高いと企業も国を出て行くのが当然です。
 第2章「税と納税意識」では、税金の考え方を説明しています。その上で、森木氏は「小さな政府」を支持しています。論理的必然でしょう。
 第3章「税の品格」では、日本の税制には、歴史的に見ても品格がないことを論じています。
 p.107 には、1950 年からのシャウプ税制について、「理想的な税制」というふれこみで、大蔵省は一芝居打ったのだと述べています。当時は、こういうことでもないと、共産主義革命が起こるかもしれないと考えられたのだそうです。うがった見方かもしれませんが、一方ではこんな見方も確かに成立しそうです。
 その後は、消費税の問題点を述べています。真っ当な議論です。
 第4章「年金もまた税金」では、歴史的な経緯もふまえて、日本の年金の問題点を述べています。ここも納得できる話です。
 第5章「国家財政の病理」では、日本の借金が、もう返せないところまで増大してしまったことを論じています。もう債務超過の連続で、どうしようもない状態だとのことです。特別会計という「裏帳簿」が不健全財政の元凶だとしています。本書の中心をなす記述でしょう。
 第6章「デッド・エンド」で、具体的に起こる破産状態について記述しています。悲惨な話です。
 その中で、p.197 から夕張市の例を引き、住民が夕張市から逃げ出している状況を描いています。そして、p.198 では国家のデッド・エンドについて「だが、自治体破産と違う点が1つだけある。それは、私たちが日本国民である以上、事実上、日本から逃げ出せないことである。」と述べています。しかし、これは、p.43 の記述と矛盾しているように思います。p.43 では、お金持ちが逃げていくと言っています。夕張市の場合でも、お金持ちは(プチ金持ち層も含めて)夕張市から逃げ出したのではないでしょうか。逃げ出せなかったのは、引越費用や、新住所での生活の見込みが立たない非お金持ち層だったのかもしれません。だとすれば、国家レベルでも同じことが起こりえます。海外に移住する手があるのです。ただし、日本で働き、日本に住まざるを得ない非お金持ち層は、その手段はとれません。もっとも、夕張市から逃げ出す費用と日本から逃げ出す費用では後者のほうが圧倒的に大きいことはいうまでもありませんが。
 第7章「増税してはならない!」では、増税しても各種の格差を是正することはできないから、増税は止めようと論じます。そして、中国人の労働改善を働きかけようとしています。破産処理のためには、公務員の首切りと、給料や退職金のカットをするべきだということを主張します。消費税は撤廃し、その代わりに「所得型付加価値税」を導入するようにすすめます。道州制も必要だとのことです。
 これらの主張はわかりますが、国家が破産する(すでにしている)ときに、増税するかどうかなんて、議論してもしかたがないことではないでしょうか。むしろ、破産した後の新しい日本のあり方を考えることが必要でしょう。第7章の議論は、日本が破産しないことを前提にしているようで、何とも違和感があります。
 本書の「格差是正が招くデッド・エンド」という副題の意味は、「格差是正を目的にして増税すると日本がデッド・エンドしますよ」ということだったのです。全体を読んだ後では、この副題も理解できますが、最初に見たときは一体何のことかと思いました。

 さて、こういう国家破綻本を読むと、日本の先行きが暗く思えてきます。では、乙は日本から逃げ出すべきでしょうか。いいえ、そうはしません。国家破綻が絶対ないとは言いきれませんが、ここ数年は大丈夫でしょうし、もしかすると20年くらいはそういうことにならないように思います。確たる根拠はありません。しかし、日本の現在の諸制度を考えると、破産宣言なんてできません。何かおかしいと思いつつも、国債を順次償却していくような道しかとりようがないと思いますが、それでも、日本は破産せずに何とかやって行けそうに思っています。20年くらいして破産するとしても、そのときは乙は退職していますから、日本にこだわる必要もないので、海外に移住することを考えると思います。

 場合にもよりますが、森木氏とはまったく逆の立場の、菊池英博(2005.12)『増税が日本を破壊する----本当は「財政危機ではない」これだけの理由』ダイヤモンド社
2006.4.14 http://otsu.seesaa.net/article/16553677.html
も合わせて読んでおくといいと思います。

 なお、森木氏のこの本は、他の光文社ペーパーバックスと同様に英語混じりの表記がなされています。しかし、これはかえって読みにくいと感じました。英語が邪魔をしています。名詞に英語の説明をつけるくらいならまだわかるのですが、p.114 では「細川内閣は税率7%とする国民福祉税構想を打ち出 make a plan したが、」などと書いてあり、とてもスムーズには読めないと思います。著者が書いた日本語原稿に、後から別の人が英語を付けたような感じです。余計なお世話のように感じました。


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posted by 乙 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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