全体として、投資信託の初心者に対する入門書といったところでしょうか。各章が「ストーリー」と「解説」の2本仕立てで書かれていますが、乙の印象では、これは成功していないと思います。ストーリーの部分は、どちらかというと小説仕立てなのですが、冗長だと思います。別の言い方をすると、中身が薄いのです。本当の意味の初心者ならば、こういう話で納得するのかもしれませんので、一概にこの本を否定するものではありませんが、乙は、おもしろくないように読みました。
p.176 および p.182 に変な円グラフが出てきます。一見して何か間違っている印象です。
標準的なアセット・アロケーションとして、日本株式 30%、外国株式 20%、日本債券 10%、外国債券 20%、その他 20% を示す円グラフです。しかし、どうも、それぞれの比率(円グラフでいうと面積の比率あるいは外周の長さ)が違うように見えるのです。念のため、円グラフを分度器で測ってみました。(分度器を使うのは何年ぶりでしょう!)
日本株式 30%=120°
外国株式 20%= 60°
日本債券 10%= 30°
外国債券 20%= 90°
その他 20%= 60°
なるほど、ずれています。同じ 20% のところで 90°のところと 60°のところがあります。正しくは以下の通りです。
日本株式 30%=108°
外国株式 20%= 72°
日本債券 10%= 36°
外国債券 20%= 72°
その他 20%= 72°
2箇所で同じグラフが出てくるとなると、単なるミスプリとは思えません。著者はこれでいいと判断していることになります。この本の主張の一番大事なところでこういう間違いがあるというのは問題ではないでしょうか。
p.228 では、エクセルのワークシートが出てきます。「マネー・カレッジ」で提供している資産管理ワークシートなのだそうです。まあ、こういう試みも意味があるとは思いますが、これで十分なのでしょうか。乙は、香港ドル建ての資産があるのですが、香港ドルはどうやって記入するのでしょうか。
もちろん、エクセルをいじれば、香港ドルを追加することはやさしいのですが、このようなワークシートを使うレベルの人は、香港ドルの欄を増やすだけでも非常に困難だと思います。それが簡単にできるという人は、こんなワークシートを使わずに、自分でこのワークシート並みのものを作るでしょう。つまり、万人にあてはまるようなワークシートを作ることはむずかしいという話です。
乙は、自分の流儀で資産管理のプログラムを作りましたが、
2007.11.24 http://otsu.seesaa.net/article/68477179.html
設計の基本は、自分の資産管理は、自分の流儀で行うということに尽きます。第三者の用意したものでは、自分には合わないのです。このようなオーダーメイドのやり方のほうが便利だと思います。
この本は、インデックスファンドに分散投資せよということが中心命題ですから、内容はまともだと思います。そのような真っ当な投資をやさしく説いた本といったところでしょうか。
この本は、末尾に索引がついていますし、参考文献もついていますから、今後の読書にも役立つでしょう。良心的な作りです。
ただし、参考文献の並べ方にちょっと問題を感じました。著者の50音順に並べていますが、アメリカ人に関しては、(名字ではなく)名前(First name)の50音順なのです。これは索引では一般的ではありません。たいていは、姓の50音順が多いと思います。これならば、日本人と混ぜても、姓の50音順ということで一貫して並べることができます。
まあ、姓名ともに覚えているような有名人はいいのですが、「J. C. ボーグル」は、「斎藤」の次、「渋井」の前に並んでいます。う〜ん、これでいいでしょうか。「ジョン」だとすると、「渋井」の次のように思います。「ジェイ」と読むならば、この位置でいいわけです。もしかして、参考文献の表記を「J. C.」などと書かずに、「ジョン, C.」と書くほうがよかったかもしれません。ところで、C. は何の略でしたっけ? 乙が過去に読んだ(日本語訳の)本でも、明記されていませんでしたが……。
ジョン・C・ボーグル(2007.8)『マネーと常識――投資信託で勝ち残る道』日経BP社
2007.9.23 http://otsu.seesaa.net/article/56400186.html
J.C.ボーグル(2000.11)『インデックス・ファンドの時代』東洋経済新報社
2006.12.3 http://otsu.seesaa.net/article/28796648.html
というわけで、本書は、若干の欠点はあるものの、投資の初心者には勧められる本でしょう。すでに投資している人には、当たり前すぎて、おもしろくも何ともないと思います。
2008.8.9 追記
この話の続きを
http://otsu.seesaa.net/article/104437941.html
に書きました。よろしければご参照ください。
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