2008年08月16日

大前研一(2007.11)『大前流 心理経済学 貯めるな使え!』講談社

 乙が読んだ本です。実におもしろい本です。端的に言って、今の日本がなぜ閉塞状況に陥っているのか、それを解決するにはどうしたらいいかを説いた本です。図表も豊富で、わかりやすく、説得力があります。
 書かれていることが広範囲に及ぶので、ブログで要約することなんてとても無理です。本書自体を読むしかありません。読んだ後は、頭がすっきりします。日本のあり方、政治家が考えていること、官僚が考えていること、などなどがすうっと説明されてしまい、「そうだそうだ」と言っている自分に気が付きます。
 大前氏は実に合理的な考え方をする人なんだと改めて感心します。こんなにも明解に日本が進むべき道を示した本があるでしょうか。(大前氏の過去の著作は同一線上にあるものと思います。)今の政治家たちに本書を読ませてみたいと思います。
 基本は、1500兆円の個人金融資産を投資に回すことだと言います。それだけで日本は大きく変わるのです。
 ただし、乙が疑問に思ったことが一つあります。pp.252- です。「1500兆円の個人資産で世界最強のファンドを作れ」ということで、10兆円単位のシグニチャー・ファンド(運用者の個人名入りのファンド)をたくさん作り、世界で最も優秀なファンドマネージャーを雇い、互いに競わせ、1年間の運用実績を確認して次の1年間のファンドを組み替えるようにすることで、年率 10% 以上の運用利回りが実現できるとしています。
 本当にこれが可能でしょうか。シンガポールで年金資金が 9.9% で運用されているからといって日本でも可能でしょうか。
 乙は二つの点で疑問を感じています。

(1)優秀なファンドマネージャーがいつも好成績を上げるわけではない。
 インデックス投資の考え方からすれば、ファンドマネージャーが好成績を上げたとしても、それは単なる偶然だということになります。
 ウォーレン・バフェットのように、株式投資で継続的に好成績を上げる例があるから、ファンドマネージャーでも優秀な人がいるという話はありますが、乙はそうは思いません。
 10兆円という巨額な資金ともなれば、ちょっとした株を買おうにも、資金が大きすぎて、自分で株価をつり上げかねません。株を売るときには、資金が巨大すぎて、大幅な株価下落を引き起こし、まともに売れなくなるのではないでしょうか。
 つまり、10兆円をうまく運用することは基本的に困難で、かろうじて可能なのはインデックス運用しかないのではないでしょうか。現実には、10兆円ファンドが数十もできるのです。全世界でこれら全部が飲み込めるのでしょうか。
 また、ファンドマネージャーを公募するとなると、変なヤツが紛れ込んできます。これをうまく排除できるでしょうか。
 乙がファンドマネージャーなら、それっとばかりに申し込みます。10兆円ですから、手数料が 0.2% だとしても、1年で200億円です。こんなうまい話はありません。そして、若干の(2倍程度の)レバレッジを効かせた投資をします。オプションを利用すれば可能でしょう。株価が1年間で上がるか下がるかは、わかりませんが、長期的には若干上がる傾向にあるわけですから、1年間でも、下がるよりは上がる方が可能性が少し大きいと思います。うまく行けば、現物主義のインデックスファンドを2倍も上回る好成績を上げることができます。1年うまく行くと、次年度も運用を任されそうで、再度 200 億円+α(前期の上昇分の 0.2%)の収入です。失敗すると、運用資産が大きく目減りします。株価下落時にはインデックスの2倍の損失が出るからです。そのときは、契約の継続はできません。しかし、「運用が下手でした。ごめんなさい」で終わりです。200億円もらえれば、それで十分です。次年度以降、運用を委託されなくてもかまいません。1年だけの運用で、一生暮らしていけるだけの資産を築くことができます。
 こんなことを考える不埒なヤツもいそうですが、それを事前に見破ることができるでしょうか。誰が見破れるのでしょうか。

(2)日本円の低金利下では、高利回りの運用は難しい。
 円をドルに替えて、世界のマーケットで勝負すれば、10% くらいの運用は可能でしょう。しかし、日本が低金利、アメリカが高金利(サブプライムローン問題の影響で現在はさほど高金利でもなくなってしまいましたが)だとすれば、将来的には(理論的には)円高が起こります。そこで、せっかくドルで 10% 稼いだとしても、円換算では、そんなに高利回りにはならなくなります。
 大前氏は、これだけでなく、日本の金利を(5.5% くらいに)引き上げよと主張しているので、その場合は、年 10% の運用も可能なように思います。しかし、今の低金利では 10% の運用利回りはむずかしいのではないかと思います。

 この問題と比べると、小さいのですが、p.341 では「株式・資産形成講座のカリキュラムの一部」が出てきます。この中に「テクニカル分析実践」というのが含まれています。大前氏はテクニカル分析が有用だとお考えのようです。インデックス投資の考え方とは対立する考え方です。


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posted by 乙 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 投資関連本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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