債券投資、中でも、外国債券投資を薦める本です。かなり珍しい本のように思います。債券は、預貯金と株式の中間に位置するような商品ですが、金融機関が個人投資家にあまりすすめるようなこともないので、何となく縁遠い存在になってるのではないでしょうか。そこに光を当てた本書は、それだけでも存在価値があるというものです。
いくつか、気になる記述もありました。
p.27 「為替の動きは一般的に、一定の範囲内で上下に変動を繰り返すもので、例えば一方的に円安になり続け1ドル=1000円になったり、逆に円高になり続け1ドル=0円になったりしません。」
言っていることは正しいのですが、「1ドル=0円」は、理論的にありえない話なので、こう述べることは不適当なように思います。為替レートは、二つの通貨の交換の比率なので、どんなに円高になろうと、0.0000001 円のようになったとしても、理論的にゼロになることはないのです。一方、1ドル=1000 円は理論的にあり得る話で、実際はそうなる確率がきわめて低いというだけです。
pp.28-29 前川氏は、円高になったとして、1ドル80円だろうと述べています。だからそれを前提に外貨投資を考えているというわけです。さて、この1ドル80円をどう考えたらいいでしょうか。乙は、15年後の為替レートとして、1ドルは60円から 240 円程度を考えたらどうかと述べたことがあります。
2006.6.19 http://otsu.seesaa.net/article/19489254.html
つまり、前川氏の言う1ドル80円説は、甘いと思います。まあ、これは個人的な感覚ですから、前川氏が不適当とも思いませんが、今までの為替変動を考えれば、1ドルが80円を超える円高になるのは普通にありうることのように思います。
pp.143-144 個人が投資できる債券の例が国内と外国とに分けてリストアップされています。2007年12月10日現在と明記されています。たとえば、その最初の日本の国債のところを見ると、償還日 2012.8.17 とあり、残存期間 0.67 年とあります。両者は、ずれているようです。2011.12.31 を基準にしているならば、残存期間は 0.67 年です。2ページにわたる数十個の債券のすべてがずれているので、単なるミスプリではないようです。乙は理解に苦しみました。
本書の構成は、四つの章と「巻末資料データ」からなりますが、巻末資料データは、80ページほどを占めます。全体が223ページですから、4割にも及ぶ長いものです。しかし、ここの記述は、あまりいただけませんでした。四つの章で述べられていることと重複する内容がけっこうあります。乙の感覚では、ここの記述は必ずしも「資料」ではないと思います。構成を変えて、適宜記述を適当な「章」に移してしまった方がずっとすっきりすると思います。本書を読んでいると、「巻末資料データ」になってしまって、「おや、もう終わりか」と感じますが、実はそこから延々と記述が続くのです。
一通り読んだ後では、1冊の分量で債券投資だけを扱うのは、ちと企画倒れかなと感じました。詳しく説明されているので、それはそれで一つのあり方ですが、乙の感覚ではかなり冗長なように読めます。
なお、この本については水瀬ケンイチ氏も取り上げています。
http://randomwalker.blog19.fc2.com/blog-entry-798.html
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でも、年間5%前後の収益を狙っていくには、債券投資がお勧めだと思いますが・・・。ちなみに米ドルゼロクーポン債をせっせと購入し続けてます。