公務員は、さまざまに優遇されていて、現代の貴族だと告発している本です。
著者の若林氏も公務員を経験してきた人ですから、自分の目で直接見てきたその経験を踏まえて、おもしろく描いています。単なる告発本でなく、各種資料にもあたった上で記述していますので、好感が持てます。
ただし、少しだけ違和感が残ります。
そんなに公務員がよければ、みんなが公務員になりたがるものではないかと思うのですが、そうはなっていないように思います。採用試験が厳しすぎる(倍率が高すぎる)のでしょうか。そうでもないと思います。
大学生の就職状況を見ると、公務員を目指す人は、それなりに少数派で、民間企業を目指す人のほうが圧倒的に多いと思いますが、だとすると、公務員=貴族という見方は、一面的すぎるかもしれません。本書で描かれる世界もある一方で、それだけではない面もあると思います。
また、公務員試験ではコネやワイロで合否が決まる、などという話もあります(最近では大分県教員採用試験がそうでした。本書でも出てきます)が、すべての公務員がそうやって採用されているわけでもなく、むしろ、大部分の公務員は公平な試験を経て選抜されているのではないでしょうか。
乙が読んでいて疑問に思った点ですが、p.213 にこんな記述があります。
厚生労働省の調査によれば、05年、メンタルヘルス上の理由で休業した労働者がいる企業は 3.3% にすぎませんでした。ただし、従業員 100 人以上の企業では 16%、500 人以上で 66%、1000 人以上では 82% と、大企業ほど率が高くなっています。大企業ほどストレスが溜まるというより、大企業ほど制度が整って交代要員もあり、休業しやすいのだと思われます。
これはおかしな記述です。大企業と中小企業で従業員の休職率に差がない場合でも、企業単位に集計すれば、従業員の多い会社ほど休業者がいる比率が高くなるのは当たり前です。
仮に、休業率が 1% だとしましょう。従業員が 10 人いれば、その会社に一人でも休業者がいる確率は、1-(0.99^10)=9.56% です(ただし「^」はべき乗を表します)。同様に従業員が 100 人いれば、休業者がいる確率は、1-(0.99^100)=63.4%、1000 人では、99.996% になります。
つまり、「休業した労働者がいる企業」を数えるのではなく、全従業員数を母数とした休業者数の比率で見なければなりません。
誤字は、p.40 真ん中あたり 証人→承認 に気づきました。
実は、乙もかつて公務員をしていたのです。若林氏とは職種も勤務先も勤務地も全然違うので、単純な比較はできないと思いますが、若林氏のいうところも一部は理解できます。しかし、大部分の公務員はまじめに働いていたと思います。これこれの異常な人がいる(ことがある)というのは事実ですが、その比率は思っているよりは低いのではないでしょうか。ただ、公務員の数が多いことと、特に地方公務員の実態が多様であることから、変な例を探し出せばそれなりにあるものだと思っています。
本書は、ひとことでいえば、読んで楽しい本です。でも、これから就職を目指す大学生がこの本を読んで素直に信じてしまっては危険だと思います。
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