この本を読もうと思ったのは、中桐啓貴(2008.7)『ほったらかしでも1億円の資産を生む株式・投資信託の始め方』
2008.10.13 http://otsu.seesaa.net/article/107997562.html
を読んだとき、お金持ちは安い中古車に乗り、安いスーツを着ているという話があり、ある人が、その話の出典がこの本だと教えてくれたからでした。
乙は一読してびっくりしました。著者たちの徹底的な調査・研究の態度に驚いたのです。p.14 には、次のようにあります。「私たちは500人以上の資産家にインタビューし、また 11,000 人以上の資産家や高額所得者にアンケート調査した。」どうですか。この本はこのような膨大な調査・研究に基づいて書かれているのです。これに匹敵するような日本の資産家研究があるのでしょうか。乙は社会学方面にはまったくうといので、わかりませんが、たぶんないのではないでしょうか。この本はすべてアメリカの話ではありますが、億万長者の考え方は世界に通じるものと思います。
本書のイントロダクションを読み始めて、すぐに驚きのことばに出くわします。本書の最初(p.9 ですが)の出だしの1段落を引用します。
20年以上前、私たちは、人はどうやって金持ちになるのかを研究しはじめた。最初、私たちは、誰もが考えるように、いわゆる高級住宅地に住む人々を対象に調査を行なった。だが、そのうちどうも奇妙なことに気づいた。豪華な屋敷に住み、高級車に乗っている人たちは、実際にはあまり資産を持っていないのだ。そしてもっと奇妙なことに気づいた。大きな資産を持つ人々は、そもそも高級住宅地に住んでいないのだ。こうして本書が始まります。最初の1段落だけでも頭をガーンと殴られた気分です。これだけで「お金持ち」のイメージが変わってしまいます。
p.26 では、金持ちの多くが1代で財産を築いていることを述べます。相続などではないのです。むしろ、金持ちの2〜3世は、必ずしも金持ちにならないのです。
p.38 から、本書の最大のテーマが語られます。「倹約」が大事だということです。お金持ちは、収入よりはるかに低い支出で生活するのです。そのようにできる人が結果的に金持ちになるのです。
p.128 金持ちの多くが株を持っています。しかし、売り買いはほとんどせずに、じっと持っているだけです。これも興味深い結果でした。
p.181 親が子供に経済的援助を与えれば与えるほど、子供は資産を蓄えなくなるというのです。これもとてもおもしろい研究でした。
p.292 お金持ちは、子供に会社を継がせず、むしろ専門職にさせようとするのだそうです。医者や弁護士や会計士などだそうです。
乙は、億万長者ではありませんが、退職後は、それに近い状態になるように思います。そのとき、どのように振る舞うべきか、考えさせられます。自分の子供にどう接するべきかもとても大事な問題です。
本書を通読してみて、乙の金持ちのイメージはすっかり変わってしまいました。何か、人生について大きな「学び」をした気分です。本書は、323 ページにわたって、比較的小さな活字でびっしり書いてあるのですが、「お金」から見た人生論が描かれています。読んでおいて損はない本です。出版年はやや古いですから、数字などは今のものに置き換えて理解する必要があるでしょうが、原則は変わらないものと思います。
できれば、誰かが日本の富裕層に関する調査・研究をしてくれれば、それと本書の結果を比べることができるのですが、……。乙が知らないだけで、実は研究が行われているのでしょうか。
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ブログを拝見するたびに綿密な分析がなされていて、いつも驚かされております。
さて、本文にあった日本の資産家研究ですが、
『日本のお金持ち研究』 橘木 俊詔 (著), 森 剛志 (著)
という書籍があります。
2003年に調査が実施され、アンケート調査の有効回答数が465とのことですので、やや規模は劣りますが、統計的には有意であると思われます。
ずいぶん前に一読しただけですが、興味深い知見を含まれていたように記憶しております。
あるいは参考になるかもしれません。
駄文、失礼いたしました。
お教え、ありがとうございます。
近日中に読んでみたいと思います。
図書館の蔵書データベースで書名に「お金持ち」を入れて検索する手もありますが、内容がわからないのです。中には、金持ち相手のビジネスの話だったりするものもあります。
すでにご存じの方から教えていただけば、少なくとも内容が違っていることはありませんから、非常に有用です。
お返事ありがとうございます。
検索が難しい、とのお言葉はまったく同感ですね。
興味本位ではなく、学術的な視点を踏まえた資産家研究というのは、注意して探しているのですが、あまり見掛けません。
時々『セオリー』なども読むのですが、出てくる資産家がステレオタイプ過ぎて(あるいは、世間一般のイメージに迎合し過ぎていて)一般的な資産家像からはほど遠い、といった印象しか持てません。
などと言いつつも、おもしろ半分で読んでいたりするのですが…(笑)。
ちなみに『となりの億万長者』は10年くらい前に読みました。なぜこの本に行き着いたかというと、あの『金持ち父さん、貧乏父さん』の巻末に参考資料として挙げられていたためです。ちょうど日本語版が刊行された頃くらいだと記憶しているのですが、定かではありません。
駄文、失礼いたしました。
いつも楽しく拝見させて頂いています。
「普通の人がこうして億万長者になった 一代で富を築いた人々の人生の知恵」
著者:本田 健
出版:講談社
この本は「となりの億万長者」を読んだ著者の方が、日本版「となりの億万長者」を作成するために書いたそうです。
よかったら読んでみてください。
駄文、失礼いたしました。
お教え、ありがとうございます。
近日中に読んでみたいと思います。
読んだら、ブログに書くことにしましょう。
一流の経済学者が、日本で統計調査を行ったのが、橘木『日本のお金持ち研究』です。
本田氏の本は、ユダヤ富豪の考え方を引用しているだけで、統計調査は行っていないのではないでしょうか。
最近、『日本のお金持ち「妻」研究』と言う本もでたようです。体を磨いて玉の輿と言う例は
なかったそうです。
ほほう、何と「妻」を研究するのですか。視点としてはおもしろそうですが、どうなんでしょうね。
「投資関連」ということで本を読んできましたが、隣接分野にも興味深いものがあることに気が付きました。
お教え、ありがとうございました。
バフェットの言葉を思い出しました。
若いころは彼はいいものもいい車も持たなかったとのことです。その分、将来有る企業への投資を行った。
今と将来の貨幣価値の差を考えられていたそうです。年を取っ手十分に利益を得てからいいスーツを着るようになったそうです。。まじめに働いていたらそうなるかなーっと甘く思っています。