ご卓見にいつも感服しております。継続的に資産運用に成功するということは、まことにハードルが高いことだと常に思っております。
ところで駒沢大学が運用失敗というニュースを見たので、米国の例をのぞいていたらエール大学のHPに遭遇しました。http://www.yale.edu/investments/Yale_Endowment_07.pdf の2頁です。詳細なディスクロージャー資料で全部は読めていませんが、Endowmentの利回りが2004年以降、19.4%, 22.3%, 22.9%, 28.0%となっています。
大学の公開資料なのでカラクリなどは無いと思い、驚愕してしまいます。そんなに高利回りを継続できる秘訣、事情を当事者に聞いてみたいと思いますが、つても何もなく叶いません。
乙様は大学がこのような利回りを上げていることにどんな感想をお持ちになるかお聞きしたく、よろしくお願いします。
というわけで、乙の感想を書くことにします。
「りょうえき」さんが挙げられた URL にある PDF ファイルは、相当詳細な資料が付いています。それを読むと、Yale 大学の資産運用について手に取るように良くわかります。
Yale 大学の投資のしかたは、かなりオーソドックスで、株式を中心にさまざまなものに分散投資しています。特に魔法のようなものがあるわけではありません。しかし、かなりアグレッシブなやり方をしているといえます。
ということは、2008 年の運用成績は、きっと惨憺たる成績になったと思われます。そうでなかったとしたら、まさに驚異です。
乙の全体的感想としては、過去4年間に年単位の平均利回りとして 20% もの成績を挙げたのは、偶然の幸運による部分が大きいように思います。
資料に目を通しながら、Yale 大学の投資方針について見てみましょう。
p.2 Introduction を読むと、10年以上にわたって 17.8% のリターンを挙げてきたこと、20年でも 15.6% のリターンであることが誇らしげにうたわれています。きちんと原則を決めて分散されたアセットアロケーションを行い、優れたアクティブ運用をしているというわけです。
2007.6 現在のアロケーションは、以下の通りです。
絶対収益ファンド 23.3%
アメリカ国内株 11.0%
固定金利商品 4.0%
外国(非アメリカ)株 14.1%
未公開株 18.7%
現物資産(商品) 27.1%
現金 1.9%
p.5 では、このような分散投資によって、インフレ調整後で 6.3% の長期成長率(リスク 12.4%)が期待されるとしています。無難な選択です。結果的に 20% のリターンがあったとしても、初めからそれをねらったわけではなさそうです。
p.6 から個別のアセットクラスごとに説明されます。
絶対収益ファンドは、ヘッジファンドの運用のしかたの一種で、市場の動きとは別に安定したリターンを出そうとするものです。6% のリターンが期待される(リスク 10%)とのことです。しかし、過去10年以上にわたって年率 13.1% のリターンを挙げてきたわけで、すばらしい成績です。
アメリカ国内株は、アロケーションとしてはかなり少な目ですが、これが Yale 大学のやり方なのでしょう。これも 6% のリターンが期待されている(リスク 20%)のですが、アクティブ運用によって、インデックスを数%上回る成績を挙げてきたそうです。
固定金利商品は、債券が中心のようですが、期待リターンは 2% (リスク 10%)で、大したことはありません。(しかし、このアロケーションが小さいという点は注目されます。)
外国株もアクティブ運用で、新興国市場での期待リターンは 6%、先進国市場でも 6% と踏んでいます。新興国の中では、特に中国やインドなどに集中投資して 8% のリターンが期待される(リスク 25%)とのことです。先進国は、6% のリターン(リスク 20%)だそうです。先進国4割、新興国4割、その他2割という割合です。しかし、外国株の運用成績は明示されていないようです。
未公開株は、ベンチャーキャピタルなどへの出資だそうで、期待リターン 11.2%(リスク 27.7%)ですが、実際は年率 31.4% ものリターンがあったとのことで、全体の資産運用の中で、ここの実入りが大きかったと思われます。
現物資産は、不動産・石油・ガス・森林などへの投資です。期待リターンは 6%(リスク 13.6%)です。しかし、1978 年以来、年率で 17.8% のリターンを挙げてきたそうで、これまたすばらしい成績です。
こうしてアセットアロケーションとそれぞれのアセットクラスの期待リターンを考えると、特に無理はなく、6% 程度のリターンになるのではないかと思われますが、配分比が大きい資産である現物資産と未公開株が非常な好成績を上げてきたわけで、結果的にすばらしい運用ができたことになります。しかし、当初の期待リターンよりはずっと大きい運用結果になったわけで、やはりこれは偶然の幸運によるのだと考えるしかありません。
2008 年の Yale 大学の運用成績を見るのが楽しみです。現在、中国もインドも大幅な株価の下落が見られるわけですし、世界的な不況が荒れ狂っているわけですから、外国株は軒並みやられているでしょう。原油価格も大幅に下落している状況ですから、現物資産もうまく運用できていないのではないかと思います。
こういう中で、2008 年にプラスのリターンが達成できたら、驚異だと思うわけです。あと半年もすれば2008 年の資産運用結果が公表されるでしょうが、さて、どんな結果になっているのでしょうかね。
ラベル:Yale 大学
ところでハーバード大学のHPを覗いてみました。2004年以降、20%内外の利回りのようで(直近年は8.6%)、エールと同様に高利回りなことに驚かされます。(fiscal yearは7月に始まるのでしょうか)
http://vpf-web.harvard.edu/annualfinancial/
但し、12/2付けでPresident 名のFinancial Updateが出ており、今年7月から10月までで22%のロスを出した。通年では30%のロスを予想。過去40年で最悪と書いてあります。
http://www.president.harvard.edu/speeches/faust/081202_economy.html
やはり常勝とはいかないということでしょうか。そうなら、何かしらほっとしますが。
ハーバード大学も、事情はイェール大学と同様だろうと思います。(乙は資料をくわしく読んでいませんが。)
それにしても、何年かにわたって 20% の運用をしてきたということ自体、すごいことだと思います。
常勝ではないにしても、そんな運用は日本ではなかなか見られませんからねえ。
そんな運用を経験してみたいものです。
だそうですね。
お知らせ、ありがとうございました。
やはり、2008 年は、イェール大学も巨額の損失を出していたようですね。当然です。今までの運用成績が良すぎました。
しかし、イェール大学は積極的なポートフォリオを組んでいるわけですから、今後は、再度、プラスの運用になる可能性も高いと思いますよ。
ニュースとしては「巨額損失」のほうが人々の耳目を引きつけるので、そういうニュースが流れるわけですが、投資の本質から考えると、それまで何年間も安定して運用してきたことをほめるべきでしょう。
たまに成績が悪い年があっても、トータルとしてはすごい成績を挙げていると考えるべきです。
損失を25%におさえることができたのはすごいことですね。