著者は、全米各地で「ミリオネア・マインド集中講座」を開催しているとのことで、そのノウハウがこの本に収められているのかと思って読んでみました。
結果的には失敗でした。たった1冊で(しかも図書館から無料で借りて)貴重なノウハウを知ることができるというほど甘いものではありませんでした。
お金持ちになれる人とお金に縁がない人の考え方の違いがいろいろと書かれています。中にはおもしろいものもありますが、どうにも変なものもあり、乙は、全体として、あまり役に立たないと思いました。
p.33 「一般的に言って、お金の使い方は、片方または両方の親のやり方を組み合わせたスタイルに落ち着く傾向がある。」とあります。なるほど、親の影響があるわけですね。ところが、先を読み進めていくと、p.36 には、「お金の使い方は、一方、または両方の親と同じスタイルになりやすいが、この正反対の場合もあり得る。つまり、親とはまるで反対のお金の使い方をする人もいる。」と書かれています。2箇所でこういうことを述べていては、法則も何もありません。人にはさまざまな考え方があるというだけで、何も語っていることにはなりません。せめて、どちらがどれくらい多いのか、比率を数量的に示してあれば、納得できる面もありますが、この著者はそういうことを自分で調べたわけではありませんから、主張は一般化できません。
この1例が端的に示すように、著者は、たくさんの人に話をしているといっても、それは自分が主観的にこうだと「わかった」(=思いこんだ)ことを語っているに過ぎません。その証拠は何も挙げられていません。したがって、いわば著者の主張は宗教のようなもので、信じる人もいるし、信じない人もいるということでしょう。また信じて助かった(一財産作った)人もいる一方で、信じて失敗した(財産を失った)人もいるでしょう。後者は決して語られることはなく、闇に消えてしまい、前者(成功者)だけが次のセミナーでの経験談として語られます。こうして、多数のミリオネアに関する知見が集積され(るように見え)ます。しかし、それが本当に通用するかどうか、何も検証されていないのです。
p.50 「あなたの経済状況を変える唯一の方法は、「お金の設計図」を書き換えることだ。」と述べています。そんな「考え方」を変えるだけで、経済状況が変わるものでしょうか。そんなことで金持ちになれるならば、みんな金持ちになっているのではないでしょうか。「お金の設計図」の話は p.27 に出てきますが、抽象的な話に過ぎません。
p.124 「金持ちになれる人は「成果」に応じて報酬を受け取る お金に縁がない人は「時間」に応じて報酬を受け取る」というところはわかりやすかったです。例も具体的でした。
pp.156-157 「お金を分けて使う。そのために、口座や貯金箱などを分ける」という考え方もわかりやすかったです。収入があったら、それを経済的独立用10%、遊び用10%、自己投資10%、必要経費55%、寄付用10% に分けるとのことです。足しても 100% にならない(95%)ことはご愛敬ですが、ともあれ、予算を立てて費消していくという態度は好ましいことですし、その中に、アメリカ人らしい観点が入っている点(自己投資と寄付)はおもしろいです。
pp.160-162 「「経済的自由」とは“不労所得”が“必要経費”を上回ること」と述べています。別の言い方をすれば、自分が働きたいと思ったとき以外は働かなくていいといいうのが経済的自由です。こういう状態は確かに望ましい状態です。定年後の老後の生活はこうであるべきでしょう。
というわけで、本書は、いくつかおもしろい記述もあるのですが、全体としては、読む必要のない本だと思います。
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>p.50 「あなたの経済状況を変える唯一の方法は、「お金の設計図」を書き換えることだ。」と述べています。そんな「考え方」を変えるだけで、経済状況が変わるものでしょうか。
きっと、ある程度安定した収入があることが大前提なんですかね。とりわけ、設計図は、収入に対する支出を見直すことでしょうか。。ない人は、状況がかわらなそうな気がしています。