小幡氏の著書は、以前にも『ネット株の心理学』を読んだことがあります。
2007.2.5 http://otsu.seesaa.net/article/32855771.html
まえがきでは、お金はなぜ増えるかという問題を論じます。答えは、p.5 にあります。「ねずみ講」です。この回答がおもしろくて、本書を読む気になりました。
現代は、産業資本が金融資本に変質しているということで、富を生み出す方法が以前とは違っているという認識が示されます。おもしろい議論です。
第1章「証券化の本質」では、なぜサブプライムローンが証券化されたかが説明されています。とてもわかりやすい説明でした。リスクの性質が変わったのだという説明には納得できます。証券の格付けも単なる数字あわせに過ぎず、きちんとした格付けがなされていなかったことが明らかにされます。
第2章「リスクテイクバブルとは何か」では、サブプライムローンを提供する会社の儲け方、ローンを借りる側の論理などが説明され、これまたわかりやすい論でした。「リスクテイクバブル」というのは、小幡氏の造語だそうです。
第3章「リスクテイクバブルのメカニズム」では、文字通り、リスクテイクバブルが起こるプロセスを描きます。必然的に起こったことが納得できます。
第4章「バブルの実態――上海発世界同時株安」、第5章「バブル崩壊@――サブプライムショック」、第6章「バブル崩壊A――世界同時暴落スパイラル」は、時間を追った記述で、そのときどきに、機関投資家やファンドマネージャーなどが何をどう考え、どう行動したかを解説しています。このあたりの記述は、事後的な説明としては納得できるのですが、そのまっただ中にいるときは、何が何だかわからなかったことでしょう。
第7章「バブルの本質」と第8章「21世紀型バブル――キャンサーキャピタリズムの発現」では、今の世界に起こっている制度的な問題を論じています。バブルの出現と崩壊は必然的なものだというわけです。
個人投資家としては、リスクのある金融商品に資金を投ずるわけですから、その先で何が起こっているのかを知っておいたほうがいいように思います。その意味では、本書は、金融関係者の行動が理解できるようになるという点で、かなり興味深いものです。
個人投資家は、長期にわたって投資を継続しているうちに、必ずバブル(とその崩壊)を経験することになります。それでも動じないためには、バブルのメカニズムについて知っておいたほうがいいということです。
少々残念だったこととしては、本書が 2008.8 の出版だったということです。その後、世界の株式市場で深刻な大暴落があったわけですから、それを記述しない本書は、今後読み継がれることはなさそうに思います。
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インデックス投資も一種のバブルだったと考えるのは、考え過ぎでしょうか?
いずれにしろ、この本には考えさせられました・・
21世紀型のバブル経済↓
http://waga.nikkei.co.jp/money/asset.aspx?i=MMWAb1001027112008
>多くの投資家がリスクのある資産を買い続ける結果、このリスク資産は値上がりを続けます。すると、本来あったはずのリスク性がなくなり、確実に利益が上がっていきます。だから、ますますリスク資産を買うというリスクテイクが勢いづき、リスク資産はさらに高騰していくわけです。こうしてつくられる21世紀型のバブルを、私は「リスクテイクバブル」と名付けました。
著者の小幡氏の考え方が、昨年9月から10月にかけての大暴落の前後で変わったとは思いません。本書の考え方は、個別事例の如何を問わず、妥当なものだと思っています。
しかし、大暴落の前に書かれた本は、単にそれだけで、本当のバブルを経験したわけではないとみなされがちではないかと思うのです。つまり、読者の立場に立つと、「古い本」に見えてしまうのです。
もちろん、だからといって、2008.12 ころに大量に刊行された「経済書」のほうがいいといっているつもりはありません。一番大事なのは内容ですから。
単に出版のタイミングによって、読まれる/読まれないが影響されてしまうことをいいたかっただけです。
乙の本文の最後の言い方は、ちょっと誤解を産む言い方かもしれませんでしたね。
なお、インデックス投資が一種のバブルだったかというのは、別の問題だと思いますが、よく考えておかなければならない問題だと思います。