この本も、本格的な株価の値下がりの前に書かれています(執筆時期は2008年4月とのこと)ので、内容的に古く感じる部分があります。
奥付のところの著者紹介によると、著者の倉都氏は、東京銀行の香港、ロンドン支店で国際資本市場業務を担当し、チェースマンハッタン銀行のマネージングディレクターなども経験したとのことですから、いわば、投資銀行の業務を自ら経験してきた人ということになります。
本書は、専門用語が解説なしで使われますから、ある程度金融の知識がある人を対象にして書かれた本ということになります。
p.32 あたりで、投資銀行と商業銀行がどう違うかを説明しているくだりは参考になりました。同じく「銀行」と名乗っていても、両者はまったく別物です。
その後、pp.199-200 では、商業銀行は公的資金投入などで再生できるけれども、投資銀行は新しいタイプの資本毀損なので、同じようにできるかどうか、疑問であるとしています。
この2点は面白かったのですが、その途中の百数十ページの記述は、乙にとってかなり退屈に感じました。
p.208 では、FRB の対応として、実態的に投資銀行(ベア・スターンズ)を救済対象とした以上、FRB が商業銀行だけでなく投資銀行をも規制対象にすべきだという議論が起きていると書いています。こうなると、投資銀行は投資銀行らしくなくなります。つまり、これが投資銀行の終焉ということです。
p.211 では、新自由主義の考え方と投資銀行の関連を、サブプライム問題を例にしながら解説しています。なるほどと思いました。
本書は、アメリカに多くある投資銀行がどんなものかを記述しています。しかし、参考文献が1冊もあげられていません。著者の見方・考え方が書いてありますが、それは著者自らの経験が中心となっているようです。なぜ著者がそのような見方をするようになったか、それを裏付ける「データ」に乏しいと感じました。したがって、著者の見方がどれだけ有効な議論なのか、わからないのです。
音楽に見立てる章の構成は成功していないように思いました。名は体を表さずといったところでしょう。
なお、細かいことですが、p.177 で「デジャブ」を「デ・ジャブ」と表記している点が気になりました。何ヵ所もありますので、ミスプリではなく、本人がそう思いこんでいるわけです。これは、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B4
にあるように、「デジャ・ブ」という切り方になります。フランス語の発音では「デジャ・ビュ」のほうが近いでしょうが。
【関連する記事】
- 香川健介(2017.3)『10万円からできる! お金の守り方教えます』二見書房
- 大江英樹、井戸美枝(2017.2)『定年男子 定年女子』日経BP社
- 天達泰章(2013.6)『日本財政が破綻するとき』日本経済新聞出版社
- 安間伸(2015.11)『ホントは教えたくない資産運用のカラクリ 投資と税金編 ..
- 橘玲(2014.9)『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 2015』幻冬舎
- 橘玲(2014.5)『臆病者のための億万長者入門』(文春新書)文藝春秋
- ピーター・D・シフ、アンドリュー・J・シフ(2011.6)『なぜ政府は信頼できな..
- 小幡績(2013.5)『ハイブリッド・バブル』ダイヤモンド社
- 吉本佳生(2013.4)『日本の景気は賃金が決める』(講談社現代新書)講談社
- 川島博之(2012.11)『データで読み解く中国経済』東洋経済新報社
- 吉本佳生(2011.10)『日本経済の奇妙な常識』(講談社現代新書)講談社
- 野口悠紀雄(2013.1)『金融緩和で日本は破綻する』ダイヤモンド社
- 吉田繁治(2012.10)『マネーの正体』ビジネス社
- 午堂登紀雄(2012.4)『日本脱出』あさ出版
- ウォルター・ブロック(2011.2)『不道徳な経済学』講談社+α文庫
- 内藤忍(2011.4)『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』大和書房
- 瀬川正仁(2008.8)『老いて男はアジアをめざす』バジリコ
- 増田悦佐(2012.1)『日本と世界を直撃するマネー大動乱』マガジンハウス
- 藤沢数希(2011.10)『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門..
- きたみりゅうじ(2005.10)『フリーランスを代表して申告と節税について教わっ..
言い訳がましくなりますが、もともと、乙は書評を書こうとしているわけではなく、単なる感想文をつづっているだけですから、そういうつもりでご笑覧ください。
そして、できれば、乙に本書をどう読めばいいか、正しい読み方をお教えください。