5ページほどの「まえがき」を読むだけで、1冊読んでみようという気にさせます。
「日本の罪と罰」というタイトルも意味深長です。まえがきにありますが、今回の金融危機は、主犯がアメリカであることは事実ですが、実は、日本(それと中国と産油国)が共犯者であり、大量の資金をアメリカに提供したという「罪」があると論じます。日本は低金利政策を取り、為替介入を行って円安に誘導したので、円キャリー取引が行われ、低コストの資金を全世界(特にアメリカ)にばらまいたという「罪」です。そして「罰」ですが、対外資産の巨額の為替差損がそれに相当します。また、これから日本を未曾有の大不況が襲いますが、これも「罰」ということになります。
第1章は「崩壊した日本の輸出立国モデル」というものです。ただし、この章は若干読みにくいと思います。文章の途中で、3章や4章で論じることを先取りしつつ、図表などを参照させている点です。たぶん、他の章を書いたあとで第1章を書いたのではないかと推測しますが、本は、そこまで読んできたことを前提にしつつ話を展開するようにするべきで、読んでいく途中で後ろから出てくることを参照するのは読みにくくなります。ただし、このような態度は第1章だけですので、本書全体としては読みにくいわけではありません。(まあ、2回読めば、何の問題にもならないわけですが。)
p.107 では、アメリカの住宅価格とトヨタの車の売れ行きの関連を論じていて、まさにその通りだと思いました。アメリカでは住宅を担保に自動車ローンを組む人が多いわけです。したがって、「日本の自動車産業は、円安に乗ってアメリカでの自動車販売を増加させ、そこで得たドルをアメリカに投資し、(結果的には)住宅ローンを支援し、住宅価格バブルの増殖に手を貸したことになった。」ということになります。住宅価格が下落すれば、信用収縮がおき、クルマが売れなくなるのは当然です。今がまさにその状態だというわけです。
p.133 では、2001 年に導入された量的緩和政策について、表向きは「デフレに対処するため」とされたが、真の目的は「為替介入による貨幣供給量の増加を放置すること」だったとしています。これまた鋭い見方でした。
p.169 あたりで、食糧自給率の問題を論じていますが、野口氏は一貫して食糧自給率を上げる必要はないという立場を取っており、本書でも持論が展開されています。乙も、こんなふうに考えているので、興味深く読みました。
本書は、各節末に内容の要約が書いてあり、大変読みやすくなっています。短時間で読みたい人は、その要約だけを拾い読みすればいいでしょう。(やっぱり本文を読みたくなるでしょうが。)
本書は、今の経済の動きを解釈して見せており、なるほどなあと思わせるところが多くありました。本当は、こういう経済危機が起こる前に読みたかったのですが、なかなかそういうことはできないのでしょうね。しかし、後講釈でも納得できるところが多々あるという点でおすすめできる良書だと思いました。
ラベル:野口悠紀雄
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